相続欠格とは?相続欠格事由や手続き方法をわかりやすく解説

遺産を相続させたくない相続人がいる場合、どのように対処すればいいんだろう?」

「相続欠格事由って、具体的にどのような事例が該当するのかな?」

このような疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

民法の中には、相続手続きの秩序を乱した者や、乱そうとした者の相続権を失わせる「相続欠格」というルールがあります。

相続欠格事由に該当した相続人は「法律上、当然に」相続する権利を失うことから、被相続人やほかの相続人は特段手続きを経る必要はありません。

しかし、実務上では相続欠格に該当するか否かをめぐってトラブルが起こるケースもあるため、相続欠格の条件や具体的な対処法について知っておくことは大切です。

こちらの記事では、相続欠格の具体的な事由や相続欠格に該当したときの効果、相続廃除との違いについて解説していきます。

相続人の中に「遺産を継がせたくない」という人物がおり、対処法を知りたい方にとって役立つ内容となっているので、ぜひ最後までご覧ください。

1分でわかる!記事の内容
  • 相続欠格事由に該当すると、当然に相続権を失う
  • 相続欠格事由は全部で5つ
  • 相続廃除で相続人の相続権を失わせることも可能

相続欠格とは?

相続欠格とは、相続人の遺産を相続する権利を剥奪する制度です。

故人を強迫したり遺言書を隠したりして、相続手続きの秩序を乱す行為が相続欠格事由に該当します。

もし相続人の中に相続欠格に該当する行為をした人がいる場合は、当該欠格人が「一切、遺産を相続させない」という取り扱いができます。

また、相続欠格に該当すると「遺産を最低限受け取れる権利」である、遺留分という権利もなくなります。

相続欠格の仕組みは、相続手続きの秩序を乱す背信行為を行った相続人の相続権を剥奪し、相続手続きの秩序を守ることが主な目的です。

相続欠格に該当するとどうなる?

相続欠格に該当する相続人は、民法で定められている相続権を失います。

被相続人が書いた遺言書に、相続欠格となった者に相続させる旨の文言があったとしても、相続権は剝奪されます。

以下で、相続欠格に該当するとどのような効果があるのか、具体的に解説していきます。

  • 相続権を失い相続・遺贈を受け取れなくなる
  • 遺言書で指定があっても財産は受け取れない
  • 遺留分も請求できない
  • 原則として相続欠格の取り消しはできない
  • 相続欠格に該当しても代襲相続は可能

相続権を失い相続・遺贈を受け取れなくなる

相続欠格事由に該当する行為を行った場合、ただちに相続権を失います。

遺産の相続を受ける権利がなくなり、遺贈を受ける権利も剥奪されることから、非常に厳しい措置と言えるでしょう。

相続と遺贈の違い
  • 相続:法定相続人による財産の引き継ぎ
  • 遺贈:遺言書で第三者に財産を渡すこと

条文でも相続欠格に該当した場合は「当然に相続権を失う」とあるため、特段手続きをとることなく、被相続人の意志に関係なく相続権は失われます。

しかし、実務上は相続欠格に該当していることを立証するために、相続欠格が生じたことを本人が認める書類を提出するケースが一般的です。

相続欠格事由に該当する行為を行った本人が認めない場合は、裁判を起こして相続欠格の是非について争うことになります。

遺言書で指定があっても財産は受け取れない

遺言書は被相続人の意思が記載されている書類で、相続手続きで非常に重要な存在です。

相続欠格事由に該当すると、遺言書で当該相続人に遺産を相続させる旨の記載があっても、財産を受け取ることはできません。

相続欠格事由に該当すると「当然に」相続権を失うことから、被相続人の意思に関係なく、相続権が剥奪されるためです。

遺言書は、遺産相続を進めるうえで強い効力を持っています。「相続人全員の同意」がない限りは、遺言書の内容とは異なる遺産分割を行うことはできません。

相続手続きでは遺言書の内容が最大限尊重されるのが一般的ですが、相続欠格は相続権そのものを剥奪する制度です。

そのため、遺言書で遺産を相続させる旨の記載があったとしても、相続欠格者は遺産を相続することはできません。

遺留分も請求できない

相続欠格事由に該当すると、遺留分も請求できません。

遺留分とは、相続人に「最低限の金額は必ず相続させる」仕組みで、相続人の生活保障を目的としている制度です。遺留分を請求すると「法定相続分の1/2(法定相続人が父母だけの場合は法定相続分の1/3)」を請求できます。

被相続人の子が相続欠格事由に該当した場合、本来であれば最低限の金額を相続できる権利である、遺留分を請求する権利も失ってしまう点は知っておきましょう。

遺留分を請求できるのは被相続人の配偶者・子・直系尊属です。兄弟姉妹以外の相続人となっています。

原則として相続欠格の取り消しはできない

原則として、相続欠格の取り消しはできません。一度でも相続欠格事由に該当した場合は、相続人としての資格・権利を永久に失い、相続人の資格が復活することもありません。

相続欠格は、欠格事由に該当すると被相続人の意思に関係なく、当然に効果が生じるとされています。

つまり、撤回や取り消しという概念がそもそも存在しないため、一度でも相続欠格事由に該当すると上記のような取り扱いを受けることになります。

相続欠格に該当しても代襲相続は可能

代襲相続とは、相続が発生したときに相続人の子(代襲相続人)が相続人になることを指します。

例えば、被相続人が亡くなる前に被相続人の子がすでに亡くなっている場合、被相続人からすると孫にあたる子が代襲相続人となります。

相続欠格はあくまでも「本人」の問題なので、相続欠格人の子は代襲相続することは可能です。つまり、被相続人を強迫して遺言書を書かせて相続欠格事由に該当し、相続発生前に亡くなったとしても、子は代襲相続できます。

相続人が「相続放棄」をした場合は、代襲相続は発生しません。相続放棄をした場合は「初めから相続人ではなかった」とみなされるため、代襲相続も発生しないのです。

相続欠格事由5パターン

相続欠格にあたる行為とは、たとえば故人を強迫して遺言書を書かせるなど、相続手続きの秩序を乱すような重大な背信行為です。

  • 故意に被相続人、自分以外の相続人を死亡させ、または死亡させようとして刑に処せられた者
  • 被相続人が殺害されたことを知りながら、告訴、告発をしなかった者
  • 詐欺や強迫により、被相続人が相続に関する遺言を作成・撤回・取消し・変更することを妨げた者
  • 詐欺や強迫により、被相続人に相続に関する遺言を作成・撤回・取消し・変更させた者
  • 相続に関する被相続人の遺言書について偽造・変造・破棄・隠匿した者

上記のいずれかに該当する場合は相続欠格者に該当し、当然に相続人の資格が剥奪されます。

故意に被相続人、自分以外の相続人を死亡させ、または死亡させようとして刑に処せられた者

故意に被相続人を死亡させて相続を発生させた(させようとした)り、自分以外の相続人を死亡させた(させようとした)場合は、相続欠格事由に該当します。

相続人には順位が決まっており、上位の人が優先して相続人になる仕組みとなっています。

具体的には、被相続人の配偶者は常に相続人になり、次は被相続人の子・父母・兄弟姉妹の順番です。

たとえば、自分の相続財産を多くする目的や自分が法定相続人になる目的で、自分よりも相続順位が上の人や同順位の人を死亡させたり死亡させようとして刑に処せられている場合が該当します。

なお、正当防衛などの理由で「刑に処せられていない」ケースにおいては、相続欠格事由に該当しません。

逆に、自分よりも相続順位が下の人を死亡させたり死亡させようとした場合でも、相続欠格事由に該当しない点は押えておきましょう。

被相続人が殺害されたことを知りながら、告訴、告発をしなかった

被相続人が殺されたことを知りながら、告訴や告発をしなかった場合も相続欠格事由に該当します。

告訴とは、告訴権者が警察などの捜査機関に犯罪が起こった事実を申告し、訴追を求める行為です。告発とは、告訴権者以外の人が警察などの捜査機関に犯罪事実を申告し、訴追を求める行為です。

たとえば、前から関係がよくなかった長男が被相続人を死亡させ、その事実を知りながらも次男が告訴を行わなかった場合、次男は相続欠格事由に該当します。

ただし、その者に是非の弁別がないとき(まだ子どもで判断がつかない場合や精神疾患患者など)は、事情を鑑みて相続欠格事由には該当しません。

また、被相続人を殺害した者が自分の配偶者や直系血族(父母・祖父母・子・孫など)にあたる場合は、相続欠格事由に該当しません。

配偶者や直系血族は親しい間柄にあるケースが一般的なので、告訴・告発を要求するのは「心理的に酷」ということから、このような取扱いになっています。

詐欺や強迫により、被相続人が相続に関する遺言を作成・撤回・取消し・変更することを妨げた者

詐欺や強迫によって、被相続人の遺言に関する行為を行わせた場合も相続欠格事由に該当します。

具体的には、詐欺や脅迫で被相続人に下記のような行動を強いた場合です。

  • 遺言書を書かせる
  • 遺言を撤回させる
  • 遺言の取り消しをさせる
  • 遺言を変更させる

例えば、「自分が有利になるように遺言書を書かないと殺す」「自分が有利になるように遺言書を書き直さないと殺す」のように、脅迫して遺言書を書かせる・変更させると相続欠格事由に該当します。

本来、遺言書は被相続人の意思を尊重するための書類です。

詐欺や脅迫の手段を用いて遺言書の作成・撤回・取消し・変更することを妨げると、相続手続きの秩序が乱れてしまいます。

そのため、詐欺や脅迫の手段を用いて遺言書に関する行動を強いた場合は、相続欠格という厳しい取り扱いを受けることになります。

詐欺や強迫により、被相続人に相続に関する遺言を作成・撤回・取消し・変更させた者

詐欺または強迫によって、被相続人が行おうとした遺言に関する行為を妨害した場合も、相続欠格事由に該当します。

例えば、被相続人が遺言を撤回して新しく遺言書を書き直そうとしていることを知ったときに、詐欺や脅迫で撤回を妨げたケースです。

詐欺や強迫により、被相続人が相続に関する遺言を作成・撤回・取消し・変更することを妨げた者と同様に、相続手続きの秩序を乱す行為として取り扱われます。

相続に関する被相続人の遺言書について偽造・変造・破棄・隠匿した者

被相続人が遺言書を作成し、遺言書の内容を偽造したり隠匿したりすると、相続欠格事由に該当します。

  • 遺言書の偽造:作成権限のないにも関わらず、被相続人の意思とは関係なく遺言書を作成すること
  • 遺言書の変造:既存の遺言書に勝手に手を加えて、内容を変更すること
  • 遺言書の破棄:被相続人の意思に県警なく、遺言書を勝手に破棄すること
  • 遺言書の隠蔽:遺言書があることを隠蔽する

例えば、相続人の一人が勝手に自分に有利な遺言書を作成した場合や、既存の遺言書を書き直すようなケースです。

また、たまたま自分にとって不利な遺言書を発見し、遺言書をシュレッダーにかけて処分してしまう行為も該当します。

なお、上記のような行為をした場合でも「相続に関して不当な利益を得ることが目的ではない」と判断されると、相続欠格事由にあたらないとする判例があります。

例えば、自分にとって有利な内容の遺言書を発見したものの、相続のトラブルを避けるために遺言書を破棄した場合、「不当な利益を得ること」が目的ではありません。

このようなケースの場合は相続欠格事由には該当せず、遺産分割協議などを通じて遺産を得ることができます。

相続欠格の効果が発生するタイミング

相続欠格の効果が発生するタイミングは、原則として相続欠格事由に該当したときです。相続欠格に該当する行為を行ったとき、「法律上、当然に」相続権を失うことになります。

以下で、相続欠格の効果が発生するタイミングについて、遺産分割前と後にわけて解説していきます。

遺産分割前に相続欠格に該当した

遺産分割協議が成立する前に、相続人が相続欠格事由に該当した場合、被相続人の相続発生時にさかのぼって当該相続人は相続欠格者に該当します。

つまり、当該相続人は当然に相続権を失い、遺産分割協議に参加できなくなります。相続権を有していない者は、遺産分割協議に参加しても意味がないためです。

相続欠格者に子がいる場合は代襲相続が発生し、子がいない場合は他の相続人が取得する財産が増えることになります。

遺産分割後に相続欠格に該当した

遺産分割協議が成立して遺産分割も完了した後に、相続人が相続欠格事由に該当していることが判明した場合も、相続欠格となるタイミングは相続時にさかのぼります。

つまり、実際に遺産分割が完了して遺産を受け取ったとしても、当然のように遺産を受け取る権利が失われることになります。

この場合、他の相続人が相続欠格者に対して「相続回復請求」を行い、遺産を取り戻す手間が発生します。

相続回復請求とは、相続人が「相続人としての権利を持っていない者」に相続権を侵害されたときに、返還を要求する権利です。

相続回復請求は、対象者に直接請求する方法と裁判所に申し立てる方法がありますが、裁判所に申し立てるのが一般的な方法となります。

相続欠格を進めるための手続き

相続人の誰かが相続欠格に該当していることがわかったら、相続欠格を進めるための手続きが必要です。

基本的に、相続人を「相続欠格人」として扱うための手続きは不要ですが、トラブルが起こったときは裁判が発生します。

以下で、相続欠格を進めるための手続きについて解説します。

原則として相続欠格の手続きは不要

相続欠格に該当すると、法律上当然に相続権が失われます。そのため、原則として相続欠格に該当した場合でも、「この相続人は相続欠格に該当する」という手続きを行う必要はありません。

前述したとおり、相続欠格はその該当事由が重大であるため、裁判などの手続きは不要です。

相続欠格事由に該当する事実があれば、ただちに相続権が剥奪されることから、手続きを経ることなる相続欠格に該当すると解釈されています。

そのため、遺産分割協議を進める場合も、当然に相続欠格者は除外することになります。

相続欠格者に反論がある場合は裁判になる

相続欠格事由に該当したとしても、「自分はそんなことをしていない」と反論されるケースもあります。

相続欠格者が「自分は相続欠格者ではない」と反論する場合は、裁判を通じて争うことになります。

具体的には、相続欠格に該当することを不服とする相続人が「相続権確認請求訴訟」を起こして、裁判での決着を図ります。

相続登記する場合には相続欠格の証明が必要になる

相続欠格に特別な手続きは不要ですが、実際に遺産分割して相続登記(相続した不動産の名義変更など)を行うときは、相続欠格に関する証明が必要となります。

相続欠格により相続人資格が欠けていることを証明する「相続欠格証明書」や、裁判を通じて相続欠格者であることが確定した場合は、確定判決謄本などの提出が求められます。

相続欠格者であることは戸籍などには記載されないため、役所側は「この人は相続欠格者である」ことを判断できません。

相続登記を進めるにあたって、相続欠格者であることを証明する別の証拠がないと、法務局が登記を受け付けてくれない点は知っておきましょう。

なお、相続欠格証明書は相続欠格者本人に書いてもらい、印鑑登録証明書と共に提出します。

もし相続欠格者が相続欠格証明書の記載を拒否して相続権を主張する場合は、やはり裁判を通じて決着を図ることになります。

相続欠格にならなかった判例

相続欠格にあたるかどうか、判断するのが難しいケースもあるでしょう。

以下で、過去に裁判所で争われた相続欠格に関する判例の中で、相続欠格にあたらなかった判例を紹介していきます。

不当な利益を得る目的で遺言の検認手続きをしなかった

相続人が、被相続人から遺言書を受領して金庫内に保管し、被相続人の死後約10年を経過するまでその検認の手続をしなかったとしても、相続上不当な利益を得る目的に出たものとはいえないときは、同相続人は、民法891条5号所定の相続欠格者に該当しない。

(大阪高裁平成13年2月27日判決)

被相続人からその子が遺言公正証書の正本の保管を託され、子は遺産分割協議の成立に至るまで法定相続人の1人である姉に対して遺言書の存在と内容を告げなかったが、被相続人の妻は被相続人が公正証書によって遺言をしたことを知っており、被相続人の妻の実家の当主は証人として遺言書の作成に立ち会ったうえ、遺言執行者の指定を受け、また、子は遺産分割協議の成立前に法定相続人の1人である妹に対して遺言公正証書の正本を示してその存在と内容を告げたなど判示の事実関係の下においては、子の行為は、民法891条5号にいう遺言書の隠匿に当たらない。

(最高裁平成6年12月16日判決)

被相続人からその子が遺言公正証書の正本の保管を託され、子は遺産分割協議の成立に至るまで法定相続人の1人である姉に対して遺言書の存在と内容を告げなかったが、被相続人の妻は被相続人が公正証書によって遺言をしたことを知っており、被相続人の妻の実家の当主は証人として遺言書の作成に立ち会ったうえ、遺言執行者の指定を受け、また、子は遺産分割協議の成立前に法定相続人の1人である妹に対して遺言公正証書の正本を示してその存在と内容を告げたなど判示の事実関係の下においては、子の行為は、民法891条5号にいう遺言書の隠匿に当たらない。

(最高裁平成6年12月16日判決)

相続人が遺言書を破棄または隠匿した場合において、その行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは相続欠格には当たらない。

(最高裁平成9年1月28日判決)

無効な遺言書を有効なものにするために訂正した

相続に関する被相続人の遺言書がその方式を欠くために無効である場合又は有効な遺言書についてされている訂正がその方式を欠くために無効である場合に、相続人がその方式を具備させることにより有効な遺言書としての外形又は有効な訂正としての外形を作出する行為は、同条5号にいう遺言書の偽造又は変造にあたるけれども、相続人が遺言者たる被相続人の意思を実現させるためにその法形式を整える趣旨で右の行為をしたにすぎないときには、右相続人は同号所定の相続欠格者にはあたらないものと解するのが相当である。

(最高裁昭和56年4月3日判決)

相続欠格と相続廃除の違い

相続欠格と同じく特定の相続人の相続権を失わせる手続きとして、相続廃除があります。

相続欠格と相続廃除は似ていますが異なる点もあるため、相続にあたってトラブルを解決する方法として内容を知っておくことは大切です。

以下で、相続欠格と相続廃除の違いについて解説していきます。

相続廃除とは

相続廃除とは、被相続人に対して虐待を行った場合重大な侮辱を加えたときに行われる手続きです。

相続廃除は、「この相続人には遺産を相続させない」と被相続人が意思表示をすることで効果を生じます。

相続廃除の申し立てができるのは「被相続人本人」に限られており、他の相続人が相続廃除の申し立てを行うことはできません。

相続欠格と同じように「相続権を喪失させる」ための手続きである点は共通していますが、相続欠格は「法律上当然に」効果が発生し、相続廃除は「被相続人の意思表示」が必要である点が異なります。

ただし、相続廃除の対象となるのは「遺留分を有する相続人のみ」です。相続廃除の対象となった者は遺産を相続する権利を喪失するため、遺留分も請求できなくなります。

なお、相続廃除も相続欠格と同様に、相続人に子がいる場合は代襲相続は行われます。

家庭裁判所に申し立てが必要かどうか

相続欠格と相続廃除は、家庭裁判所への申し立てが必要かどうかという点が異なります。

相続欠格の場合、相続欠格事由に該当する行為が発覚した瞬間に「法律上当然に」相続人は相続権を剥奪されます。つまり、相続欠格の場合は手続きを経ることなく効果が生じるため、家庭裁判所に申し立ての手続きを行う必要はありません。

一方で、相続廃除で相続人の相続権を喪失させるためには、家庭裁判所に申し立てを行い認めてもらうことが必要です。

被相続人が「あの相続人には遺産を相続させない」という意思表示だけでは、当該相続人に遺留分の権利が残ります。廃除させたい相続人の遺産相続権利を喪失させるためには、家庭裁判所への申し立てが必要となります。

つまり、相続廃除に該当する行為があった場合でも、被相続人が生前に家庭裁判所への申し立てをしなければ、相続廃除の効果は生じません。

撤回が可能かどうか

相続欠格と相続廃除は、撤回が可能かどうかも異なります。相続欠格は一度該当すると撤回されることはなく、相続権が回復することはありません。

欠格事由に該当する行為があれば、被相続人の意思に関係なく当然に効果が生じるため、そもそも撤回という概念がないためです。

しかし、相続廃除は被相続人の意思による手続きなので、もし一度相続廃除をしても撤回することが可能です。

相続廃除の撤回を希望する場合は、家庭裁判所に撤回の申し立てを行い、認められれば相続廃除を撤回できます。

生前に家庭裁判所に「廃除の審判の取消し」の審判申立を行い、相続廃除の撤回が認められると、当該相続人が喪失した相続権が復活します。

相続排除に該当する要件

民法892条では「遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったとき」に、被相続人は相続廃除を家庭裁判所に請求できるとされています。

  • 被相続人を虐待したとき
  • 被相続人に重大な侮辱を加えたとき
  • その他の著しい非行があったとき

例えば、相続人が被相続人に対して肉体的・精神的に虐待をして暴言を吐いていた場合や、相続人が被相続人の財産を勝手に使っていた場合です。

上記のいずれかに該当する行為を受け、被相続人が家庭裁判所に申し立てて認めてもらえれば、相続廃除の要件はクリアできます。

相続廃除の手続き方法

相続欠格事由には該当しないものの、特定の相続人の相続権を失わせたい場合は相続廃除を検討することになります。

相続廃除をしたい場合は、被相続人が家庭裁判所に申し立てを行う必要があることから、生前に行うケースが一般的です。

しかし、被相続人が死亡した後に遺言執行者が申し立てるよう遺言を遺すことでも、相続廃除を行うことが可能です。

被相続人が生存中に手続きをする生前廃除

被相続人が生前に相続廃除の手続きを行いたい場合は、被相続人自身が家庭裁判所に相続廃除を申し立てる「生前廃除」を行います。

なお、生前廃除の手続きを進めるためには、まず家庭裁判所から「推定相続人廃除の審判申立書」を入手したうえで内容を記入します。

記入が済んだら、被相続人の住所を管轄する家庭裁判所に以下の必要書類を提出し、手数料を支払いましょう。

  • 相続廃除申立書
  • 被相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 廃除したい推定相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)

審判が確定すると、審判書謄本と確定証明書の交付を受けられるようになるため、取り寄せて自宅に保管します。

また、裁判所から相続廃除が認められたら、10日以内に被相続人の戸籍がある市区町村役場に以下の必要書類を提出し、当該相続人の廃除を届け出ます。

  • 推定相続人廃除届(市区町村役場の窓口でもらうかダウンロードする)
  • 家庭裁判所による審判書の謄本
  • 審判の確定証明書

市区町村役場での手続きが完了したら、推定相続人の戸籍に「相続廃除を受けた」旨が記載され、一連の手続きは完了となります。

被相続人の死後に手続きをする遺言廃除

遺言書に相続廃除を希望する旨を記載し、遺言執行者に手続きを進めてもらうことでも、相続廃除を行うことは可能です。

生前に行えない事情がある場合でも、「遺言廃除」を活用すれば被相続人の死後に相続廃除を行えます。

遺言廃除をする場合は、必ず被相続人自身が相続廃除を望んでいた意思と具体的な理由を、遺言書などの正式な書面に記述する必要がある点には注意しましょう。

あくまでも相続廃除は「被相続人の意思で行う」ものなので、相続人の意思が混在しないようにする必要があるためです。

また、遺言廃除においては、相続廃除の申し立ては遺言執行者が行うため、被相続人は生前に遺言執行者を選ぶ必要があります。

なお、相続廃除の具体的な流れは下記のとおりです。

  1. 遺言書に相続廃除を希望している旨を記載する(廃除したい相続人、相続廃除に該当する内容を詳細に記述する)
  2. 相続が始まる
  3. 遺言執行者が家庭裁判所から「推定相続人廃除の審判申立書」の書式をもらう
  4. 遺言執行者が推定相続人廃除の審判申立書を記入し、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に必要書類と提出する
  5. 審判が確定する
  6. 審判書謄本と確定証明書の交付を受けられるようになる
  7. 廃除が認められたら、遺言執行者は10日以内に被相続人の戸籍がある市区町村役場に必要書類を提出し、推定相続人の廃除を届け出る
家庭裁判所に提出する書類
  • 相続廃除申立書
  • 被相続人の死亡が記載された戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 廃除したい推定相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 遺言書の写し、または遺言書の検認調書謄本の写し
  • 執行者選任の審判書謄本

廃除の審判後、市区町村役場に提出する書類
  • 推定相続人廃除届(市区町村役場の窓口でもらうか、ホームページからダウンロード)
  • 家庭裁判所による審判書の謄本
  • 審判の確定証明書
  • 推定相続人の戸籍に廃除された旨が記載される

基本的な流れは生前廃除と同じですが、遺言執行者が手続きを行う点と、必要書類に違いがある点は押さえておきましょう。

喪失した相続権を復活させる相続欠格の宥恕

相続欠格事由に該当しても、被相続人の意向によっては当該相続人に遺産を相続させることは可能です。

喪失した相続権を復活させることを「相続欠格の宥恕(ゆうじょ)」と言いますが、相続欠格者を被相続人が許すことを意味します。

相続欠格の宥恕を規定する法律は存在しないうえに、宥恕が認められるかどうかの判例も過去にないことから、宥恕が認められるかどうかは実務上確定していません。

専門家でも相続欠格の宥恕を認めるかどうかは判断が分かれているため、相続欠格者が相続権を回復できるかどうかは、未知数なのが実情です。

もし、被相続人が「相続欠格者を許して、財産を相続させても構わない」という考えを持っている場合は、生前贈与をする方法があります。

被相続人は、そもそも生前贈与や遺言によって自分の意思で財産を承継させる権利があります。そのため、相続欠格人に対して、相続ではなく「生前贈与」という形で財産を渡すことは可能です。

なお、そもそも宥恕に関する法律上の規定が存在しないことから、宥恕の手続き方法の規定もありません。

被相続人が「相続欠格者である」事実を認識した上で、生前贈与を行った場合、財産を渡すことが可能と考えられています。

まとめ:相続欠格にはただちに相続権を失わせる強い効果がある

相続欠格事由に該当した相続人は、ただちに相続権を失うことになります。

相続欠格者は、法律上当然に相続権を失うこととなっているうえに遺留分を請求する権利も失うため、相続欠格は非常に強い効果を持った規定と言えるでしょう。

相続欠格事由に該当しないものの、虐待や侮辱行為を受けたときは「相続廃除」という形で相続人の相続権を失わせることができます。

相続人の中に財産を渡したくない者がいる場合は、相続欠格か相続廃除の手続きの活用を検討しましょう。

ほかにもこちらのメディアでは、推定相続人法定相続人についても解説しています。ぜひこちらの記事もご確認ください。