数次相続が発生したときに、どうやって手続きを進めていけばいいのかわからず、悩んでいる方もいるのではないでしょうか?
数次相続では、遺産分割協議書の書き方が通常とは異なるため注意が必要です。
事前に正しい知識と手続き方法を身に着けておくと、万が一のときもトラブルなくスムーズに相続を進められます。
今回は、数次相続における遺産分割協議書の書き方や登記方法について解説します。
- 数次相続とは、複数の相続が近接して立て続けに起こること
- 数次相続における遺産分割協議書は、冒頭と末尾の書き方が通常と異なる
- 中間相続人が1人の場合は、中間省略登記が認められる
数次相続とは?
最初に、数次相続の意味について解説します。
相続手続きが終わる前に次の相続が起こる
数次相続(すうじそうぞく)とは、遺産分割協議や名義変更などの手続きが終了する前に、相続人の1人が亡くなり、次の相続が始まる状況のことです。
最初の相続を「一次相続」、次に発生した相続を「二次相続」と呼びます。一次、二次と相続が連続発生しているので、数次相続といいます。
数次相続がどこまで続くかについて、法律では定められていません。相続手続きが完了する前に相続人が死亡し、その方に相続人が存在する限り、三次、四次と延々に続きます。
相続が重なるほど関係が複雑化し、手続きも難航するので注意が必要です。
相続人の地位を承継する
数次相続では、死亡した相続人の相続人が遺産分割協議に参加する地位を引き継ぎます。そのため、一次相続の協議には二次相続の相続人も参加します。
亡くなった方の相続分も引き継ぎますが、プラスの財産だけでなくマイナスの財産も承継するので注意が必要です。マイナス財産には、以下のものが含まれます。
- 住宅ローンの残高債務
- カーローンなどの割賦契約の残金
- クレジット残債務
- 未払金(賃借料、水道光熱費、通信費、管理費、医療費など)
- 保証債務、連帯債務
- 公租公課(所得税、消費税、住民税、固定資産税、土地計画税など)
マイナスの財産が多いと、相続によって思わぬ負担を負ってしまう恐れがあります。プラス財産よりもマイナス財産が上回る場合は、相続放棄を検討したほうがよいでしょう。
相続税の申告書を提出する前に相続人が亡くなったときは、その相続人の代わりに相続税の申告・納税手続きをしなければなりません。
手続きには期限が定められており、相続が発生した翌日から10カ月以内です。ただし、相続人の地位を引き継いだ方は相続人が亡くなった日から10カ月となり、期限が延長されます。
相続人調査が複雑になる
数次相続では、遺産分割協議のための相続人調査が複雑になります。すべての相続について相続人を確定させるには、戸籍謄本等を取り寄せなければなりません。
数次相続は状況によって三次、四次と続く可能性があり、相続が重なるほど調査対象が増え、権利関係も複雑になります。
ご自身で調査するのが難しい場合は、弁護士や司法書士などの専門家に依頼するのも一つの方法です。
数次相続の典型例
数次相続の主なケースを3つご紹介します。
家族が順に死亡した
典型的な事例は、父の死亡後すぐに母も亡くなる(逆の場合もあり)といったケースです。祖父(祖母)が亡くなり、その後父親または母親(祖父の息子・娘)が亡くなるというケースもあります。
家族の中で不幸が重なったことで、次の相続が始まってしまうパターンが一般的です。 家族が短期間のうちに立て続けに亡くなると、相続人関係が複雑になります。
例えば、祖父が死亡した後、すぐに父も亡くなったとしましょう。祖父の相続人は祖母・伯父・父の3人で、父の相続人は母・長男・長女の3人です。
このケースでは、母・長男・長女の3人は父の相続分を引き継ぐため、祖父の相続人は祖母・伯父・母・長男・長女の合計5人になります。
遺産分割を先延ばしにした
何かの事情により遺産分割を先延ばした結果、次の相続が始まってしまうパターンもあります。遺産分割が延びる理由は、主に以下のとおりです。
- 遺産トラブル
- 相続人が行方不明
- 財産の隠匿
遺産分割が先延ばしにされて時間が経過し、その間に相続人が亡くなれば、数次相続として処理します。
不動産の名義を放置していた
不動産の名義変更をしないまま放置していることで数次相続が発生することもあります。亡くなった親族名義のまま長年放っておくと、相続人の中で死亡した者が現れたときに、数次相続として処理をしなければなりません。
数次相続における遺産分割協議の仕方
遺産分割協議とは、遺産を分割するための話し合いのことです。協議には相続人全員の参加が必須です。
数次相続では、一次相続の協議に二次相続の相続人が参加するため、人数が増えて話し合いがまとまらないケースがあります。
しかし、面倒だからと放置していると、新たな相続が発生してしまい状況はどんどん複雑化していきます。収拾がつかない事態になる前に、数次相続は早めに対処すべきです。
ここでは、数次相続における協議の仕方を解説します。
複数の相続を同時に行える
数次相続では、複数の相続について協議を同時に行う方法が認められています。以下に該当する場合は、協議を同時に行ったほうがよいでしょう。
- 複数の相続に共通する相続人がいる
- 相続人の住居が離れている
相続人が共通であれば、時間も労力も節約できるので簡便です。
分けて協議したほうがよい場合もある
相続人が重複しなければ、個別に協議を行ったほうがよいケースもあります。人数が多くて協議が進まない場合は、分けて協議したほうがよいでしょう。
協議を別々に行っても同時に行っても、どちらでもかまいません。明確な決まりはないので、状況に応じて柔軟に対応しましょう。
数次相続における遺産分割協議書の書き方・記載例
遺産分割協議が成立したら、遺産分割協議書を作成しましょう。遺産分割協議書とは、協議で決めた相続分などの内容をまとめた文書です。
ただし、複数の相続が発生している数次相続では、通常とは協議書の記載方法が違います。ここでは、協議書の記載例をご紹介します。
冒頭の記載例
冒頭部分には、被相続人の氏名と生年月日、死亡年月日、住所、本籍地を記載します。その際、2番目に死亡した被相続人は「相続人兼被相続人」と表記します。
【記載例】
相続人兼被相続人○○○○(昭和○○年○○月○○日生まれ) 死亡日 令和○○年○○月○○日 本籍地 ○○県○○市○○町○丁目○番○号 最後の住所地 ○○県○○市○○町○丁目○番○号 |
数次相続が起きた経緯の記載例
数次相続が起きて引き継ぎに至った経緯を記載します。
【記載例】
本籍 ○○県○○市○○町○丁目○番○号、被相続人○○○○(令和○○年○○月○○日死亡)及び 本籍 ○○県○○市○○町○丁目○番○号、被相続人●●●●(令和○○年○○月○○日死亡)の遺産については、同人の共同相続人の全員において分割協議を行った結果、下記相続人が次のとおり下記遺産を相続し、取得及び承継することに決定した。 |
「被相続人○○○○」には1回目の相続、「被相続人●●●●」には2回目の相続における被相続人の名前を記載しましょう。
末尾の記載例
協議書の末尾にある相続人の署名欄には、相続人全員の署名と実印が必要です。通常の肩書は「相続人○○」ですが、二次相続の相続人は「相続人兼○○(被相続人の名前)の相続人●●」と書きます。
【記載例】
住所 ○○県○○市○○町○丁目○番○号 相続人兼被相続人○○の相続人●●●● 実印 |
作成した遺産分割協議書を手続きのために提出する際は、相続が発生した日以降に取得した印鑑証明書を添えましょう。
ただし、最初に亡くなった方と、次に亡くなった方の印鑑証明書は必要ありません。
数次相続における登記の仕方
不動産を相続したら相続登記(名義変更)が必要です。数次相続では、登記の仕方も通常とは異なるので注意しましょう。
条件を満たせば中間省略登記ができる
数次相続では「中間省略登記」が認められる可能性があります。
中間省略登記とは、複数の権利移転がある場合に、中間の登記を省略して最後の名義人に直接変更することです。例えばAからBへ、BからCへ所有権が移転している場合、AからBへの登記を省略して、AからCに直接登記できます。
中間省略登記が認められると、1回で名義移転の登記が終わるので、手間を省けるメリットがあります。登録免許税や専門家への報酬も1回分で済むため、費用の節約が可能です。
中間省略登記が認められるケース
中間省略登記が認められるのは、下記の2ケースです。
- 中間の相続人が1人
- 中間の相続人は複数いるが、そのうち1人が単独相続する
例えば子どものいない夫婦が相次いで死亡し、妻の妹が相続する場合、中間の相続人が1人だけなら中間省略登記が認められる可能性があります。 中間の相続人が複数いても、相続放棄などによって結果的に単独相続となれば中間省略登記が認められます。
なお、単独相続が求められるのは中間の相続のみであり、最後の相続は共同相続であってもかまいません。
中間省略登記が認められないケース
中間者が複数いる場合は、中間省略登記ができません。中間者が複数いると、最終相続人ごとに登記原因(中間者の死亡年月日)が異なるためです。そのため、中間省略登記は中間者が1人のみの場合に限られています。
土地の一次相続は免税措置がある
平成30年の税制改正により、数次相続の一次相続における土地の登録免許税には、免税措置が設けられています。そのため、土地の相続登記については、中間省略登記をしなくても登録免許税を1回分で済ませることが可能です。