「厚生年金の加入者でも死亡一時金をもらえるの?」「いくら受け取れるの?」など、死亡一時金の受給対象になるのか、対象になるとしていくら支給されるのかについて不安に思っている方はいませんか?
亡くなった方が厚生年金の加入者でも、要件をクリアすれば死亡一時金を受け取れます。ただし、要件を満たしていなかったり期限を過ぎてしまったりすると受け取れないため要注意です。
この記事では、死亡一時金の請求手続きや支給額について解説します。死亡一時金を受け取れる方の要件やもらえないケースについてもご紹介しているため、最後までぜひご覧ください。
- 死亡一時金とは、国民年金の加入者が老齢基礎年金などを受給せずに亡くなったとき、その遺族に支給される一時金のこと
- 死亡一時金を受給するためには、国民年金の保険料を36カ月以上納付していることなどの条件を満たす必要がある
- 遺族厚生年金と死亡一時金は、遺族基礎年金の受給権を持つ「子どものいる配偶者」や「子ども」がいない場合は併給できる
厚生年金の死亡一時金とは?
まず死亡一時金とは、国民年金の第1号被保険者が老齢基礎年金や障害基礎年金を受給せずに亡くなったとき、その遺族に対して支給される一時金です。
本来死亡一時金の対象は「第1号被保険者」であり、厚生年金の加入者である第2号被保険者が亡くなったときに支給されるのは遺族厚生年金です。
しかし一定の要件をクリアすれば、厚生年金加入者の遺族でも遺族厚生年金とあわせて死亡一時金を受け取れます。死亡一時金を受け取れる要件については、次章で詳しく解説します。
厚生年金の死亡一時金を受給できる方の要件
死亡一時金は、ただ国民年金に加入していただけでは受給できません。受給するためには、「亡くなった方」と「遺族」両方の要件を満たす必要があります。
ここでは、厚生年金加入者の遺族が死亡一時金を受け取るための要件について解説します。
亡くなった方の要件
亡くなった方の要件は以下のとおりです。
- 国民年金の保険料を「第1号被保険者」として36カ月以上納付済みである
- これまで老齢基礎年金、障害基礎年金を受け取ったことがない
国民年金の保険料は、亡くなった日の前日時点で36カ月以上納付している必要があります。ポイントは「第1号被保険者として」納付しているかどうかです。
全額または一部免除を受けていた場合の納付済期間については、以下の計算式に当てはめて計算します。
全額免除 | 保険料を納めていないため計算に含めない |
---|---|
4分の3免除 | 免除期間の月数×4分の1 |
半額免除 | 免除期間の月数×2分の1 |
4分の1免除 | 免除期間の月数×4分の3 |
たとえば、3年間第1号被保険者として保険料を納めており、そのうち1年間が半額免除であったケースでは以下のように計算します。
- 12カ月×2年=24カ月
- 12カ月×2分の1=6カ月
- 24カ月+6カ月=30カ月
3年間保険料を納めている=納付済期間が36カ月で要件をクリアしていると思いがちです。しかし、上記のように一部免除期間がある場合、納付済期間が36カ月を下回る可能性があるため注意しましょう。
納付済期間が足りなくても、後日追納した分については納付済期間に含められます。要件をクリアできそうにないときは追納するのもひとつです。
そのほか「老齢基礎年金や障害基礎年金を受け取ったことがない」という要素も重要です。受け取っていると、死亡一時金の受給対象から外れてしまいます。
遺族の要件
遺族の要件は以下のとおりです。
- 亡くなった方(第1号被保険者)と生計をともにしていた
- 遺族基礎年金の受給資格がない
- 寡婦年金を選択していない
「生計をともにしていた」と認められるためには、住民票上同世帯であることや、住民票上は別世帯でも住民票の住所が同じであることなどの条件を満たす必要があります。
住民票の住所が異なっていても、寝食をともにしていた場合や、経済的な援助を受けていたケースなども「生計をともにしていた」と認められます。
なお、死亡一時金を受け取れる遺族には優先順位があるため、ご自身の順位を確認してから請求しましょう。受給権はもっとも優先順位の高い遺族だけにあり、それ以降の順位の方には受給権がありません。
遺族の優先順位は以下のとおりです。
- 配偶者
- 子ども
- 父母
- 孫
- 祖父母
- 兄弟姉妹
厚生年金の死亡一時金の支給額
死亡一時金の支給額は、国民年金保険料の納付済月数と免除月数の合計によって異なります。月数別の支給額は以下のとおりです。
納付済月数と免除月数の合計 | 支給額 |
---|---|
36カ月以上180カ月未満 | 12万円 |
180カ月以上240カ月未満 | 14万5,000円 |
240カ月以上300カ月未満 | 17万円 |
300カ月以上360カ月未満 | 22万円 |
360カ月以上420カ月未満 | 27万円 |
420カ月以上 | 32万円 |
36カ月以上付加保険料を支払っていた場合は、上記の支給額に8,500円が上乗せされます。付加保険料とは、定額の保険料にプラスして支払う保険料です。
金額は毎月一律400円で、付加保険料を納めることで将来受け取れる年金額を増やせます。保険料の全額免除や一部免除、納付猶予、学生納付特例を受けている場合は納められません。
死亡一時金を受給するための手続き
死亡一時金を受給するためには、どのような死後手続きが必要なのでしょうか?ここでは、死亡一時金を受給するための手続きについて解説します。
必要書類
死亡一時金を請求する際の必要書類は以下のとおりです。
- 国民年金死亡一時金請求書
- 亡くなった方の基礎年金番号がわかるもの
- 戸籍謄本または法定相続情報一覧図の写し
- 世帯全員の住民票(謄本)
- 亡くなった方の住民票除票
- 死亡一時金を受け取る金融機関の通帳など
それぞれ解説します。
国民年金死亡一時金請求書
国民年金死亡一時金請求書は、住所地を管轄する市区町村役場や年金事務所、街角の年金相談センターの窓口に備え付けられています。そのほか、日本年金機構のホームページでダウンロードが可能です。裏面に記載されている「記入上の注意事項」に従って記入しましょう。
亡くなった方の基礎年金番号がわかるもの
亡くなった方の基礎年金番号を確認できるものが必要です。基礎年金番号通知書や年金手帳があれば持参しましょう。
なければ、国民年金保険料納付書や日本年金機構から送られてくる書類などでも基礎年金番号はわかります。何も提出できない場合は、理由書を提出しなければなりません。
戸籍謄本または法定相続情報一覧図の写し
戸籍謄本は、亡くなった方の死亡日以降に取得したものでなければなりません。亡くなった方の死亡事項や請求者の関係、請求者の氏名や生年月日がわかるものを添付しましょう。
なお、法定相続情報一覧図とは、亡くなった方の相続関係がまとめられた家系図のようなものです。法務局の登記官に認証された公的な証明書であり、1枚あれば戸籍謄本を省略できます。
法定相続情報一覧図を取得するためには、亡くなった方の最後の住所地を管轄する法務局に、戸籍関係や法定相続情報一覧図のもとになる図を提出する必要があります。
世帯全員の住民票(謄本)
世帯全員の住民票も、亡くなった方の死亡日以降に取得したものが必要です。亡くなった方と請求者が生計をともにしていたかどうかを確認するために添付します。ただし、国民年金死亡一時金請求書にマイナンバーを記入した場合は省略が可能です。
亡くなった方の住民票除票
亡くなった方の最後の住所が確認できるものが必要です。住民票の除票ではなく、戸籍の附票を添付しても構いません。ただし、世帯全員の住民票に亡くなった方の情報も記載されている場合は不要です。
死亡一時金を受け取る金融機関の通帳など
金融機関の通帳など、口座の情報がわかるものを持参しましょう。通帳やキャッシュカードはコピーで構いません。カナ氏名や金融機関名、支店番号、口座番号を確認できるものが必要であるため、通帳なら表紙をめくったページをコピーするとよいでしょう。
請求先
死亡一時金の請求は、住所地を管轄する市区町村役場や年金事務所、街角の年金相談センターの窓口で行います。市区町村役場で手続きする場合の請求先は、国民年金担当係です。窓口まで出向き、前述した必要書類を提出しましょう。
窓口まで行けないときは郵送での請求がおすすめです。郵送請求を利用する場合は、マイナンバーカードのコピー(両面)を同封する必要があります。
請求期限
死亡一時金の請求期限は、「被保険者が亡くなった日の翌日から2年以内」です。
2年を過ぎてしまうと死亡一時金は受け取れません。時間があるからと先延ばしにすると、そのまま忘れてしまう可能性があるため注意しましょう。
ただし、年金記録が訂正されたことが原因で期間を経過してしまったときは、期限を過ぎていても請求できる可能性があります。その場合は年金事務所に相談しましょう。
支給されるタイミング
死亡一時金が支給されるまでに数カ月かかります。請求後、まず2〜4カ月で日本年金機構から「一時金支給決定通知」が郵送され、その後死亡一時金が指定した口座に入金されます。
入金は一時金支給決定通知書が届いた当月中に行われることが一般的です。なお、通知書には支払年月が記載されているため、確認してみましょう。
請求から支給までは日数がかかるため、早めに手続きすることが大切です。
厚生年金と死亡一時金の併給について
遺族厚生年金と死亡一時金は併給が可能です。ただし、すべてのケースで併給できるわけではない点に注意しましょう。
たとえば子どものいる配偶者や子どもなど、遺族の中に遺族基礎年金の受給権がある方がいる場合は死亡一時金が受給できないため、遺族厚生年金との併給はできません。
条件を満たしていれば、遺族基礎年金と遺族厚生年金の併給は可能です。また、受給者ご自身の老齢基礎年金や老齢厚生年金と遺族厚生年金を併給しているケースでも、死亡一時金は受け取れます。
厚生年金の死亡一時金がもらえないケース
要件を満たしているように思えても、さまざまな理由から死亡一時金がもらえないこともあります。ここでは、死亡一時金がもらえないケースをご紹介します。
納付期間が足りない
死亡一時金の受給には、国民年金の保険料をトータルで36カ月納付していることが必要です。
この「36カ月」は、第1号被保険者として納付したものでなければなりません。たとえばこれまで厚生年金にしか加入したことがなく、第2号被保険者として保険料を納め続けていた場合は対象にならない点に注意しましょう。
いくら長年にわたって保険料を納付してきたとしても、そのうち第1号被保険者として保険料を納めていた時期が36カ月に満たなければ、死亡一時金の受給要件を満たせないのです。
ただし足して36カ月以上になれば、連続して納付していなくても構いません。途中で未納期間があっても、「トータルで36カ月納付していればよい」ということを覚えておきましょう。
死亡一時金の「遺族」に該当しない
死亡一時金の「遺族」に該当せず、受給できないケースもあります。たとえ亡くなった方の配偶者や子どもでも、別居していて生計も別なら死亡一時金で定められた遺族に該当しないため受給権がありません。
また、受給できる方の中には順位があります。亡くなった方と同居していたとしても、ご自身より高順位の方がほかにいる場合は受給できないため注意が必要です。
請求する前に時効期間が過ぎてしまった
死亡一時金を請求する前に時効期間が過ぎてしまった場合も、年金記録が訂正されたために期限を過ぎてしまったなどの理由がないかぎり、死亡一時金は受給できません。
死亡一時金は自動的にもらえるものではなく、たとえ受給権があったとしても請求しなければ受給できないことを覚えておきましょう。
死亡一時金の請求期限は「亡くなった日の翌日から2年以内」です。2年は長いようであっという間です。期限切れにならないよう、できるだけ早めに手続きするようにしましょう。
ほかの年金を受給した
ほかの年金を受給したときなども、年金の種類によっては死亡一時金の受給権を失います。たとえば以下のようなケースです。
- 亡くなった方が老齢基礎年金、障害基礎年金を受給していた
- 遺族が遺族基礎年金の受給権者に該当する
- 寡婦年金を選択した
亡くなった方が老齢基礎年金、障害基礎年金を受給していた場合は死亡一時金が受け取れません。また、遺族が遺族基礎年金の受給権者に該当するときも同様です。
そのほか、寡婦年金と死亡一時金はどちらか片方しかもらえないため、寡婦年金を選択すると死亡一時金はもらえなくなります。
亡くなった時期がわからない場合の取り扱い
死亡一時金の請求をはじめ、多くの死後手続きでは「いつ亡くなったのか」が重要です。亡くなった時期が正確にわからないときは、「死亡の推定」や「失踪宣告」によって死亡日を決定します。
たとえば船舶の沈没や航空機の墜落、震災によって行方不明になり、3カ月間生死がわからない場合は沈没や墜落、行方不明になった日を「死亡推定日」とします。3カ月以内に死亡は判明したものの、亡くなった日が正確にわからないときも同様です。
一方、失踪宣告は一定期間生死がわからなくなっている方を、法律上いったん亡くなったことにする制度です。失踪宣告には以下の2種類があります。
普通失踪 | 理由にかかわらず、生死が7年間わからない場合 |
---|---|
特別失踪 | 戦災や震災、事故などに遭遇し、1年間生死がわからない場合 |
普通失踪では生死がわからなくなってから7年後を失踪宣告日とし、その日に亡くなったものとして扱います。特別失踪の場合は生死がわからなくなってから1年後を失踪宣告日とし、危難が去ったときを亡くなった日として扱います。
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