相続で印鑑証明書はなぜ必要?ないときや紛失したときの対処法も解説

「相続手続きで印鑑証明書は何通必要なんだろう?」「印鑑証明書は、どのような手続きで使うのかな?」このような疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

相続が発生して、遺産分割協議書を作成するときや被相続人の遺産の名義を変更するときは、印鑑証明書が必要となります。相続人が自分一人でない限りは、基本的に多くのシーンで印鑑証明書が必要となるため、事前に何通か用意しておくとよいでしょう。

こちらの記事では、相続手続きで印鑑証明書が必要になる具体的なシーンや、必要な枚数などを解説していきます。

スムーズに相続手続きを進めるにあたり、印鑑証明書に関して知りたいという方に役立つ内容となっているので、ぜひ最後までご覧ください。

1分でわかる!記事の内容
  • 印鑑証明書は自分の意志で押印したことを証明する大切な書類
  • 相続手続きを進めるにあたって、3通程度用意しておくと安心
  • 印鑑登録が済んでいない場合は早めに登録を済ませることが大切

印鑑証明書とは

印鑑証明書は「印鑑登録証明書」とも呼ばれており、自治体に登録している印鑑が「本人の印鑑である」ことを証明する書類です。不動産登記を行うときや相続手続きを進めるにあたって、印鑑証明書は必須です。

印鑑証明書があれば自治体から「本人が登録した印鑑である」ことが証明され、本人の印鑑の正当性を保証していることになります。

実印と印鑑証明書があれば「本人の捺印である」ことを証明できるため、印鑑証明書は自分の身分を証明するうえで重要な書類と言えるでしょう。

印鑑証明書がないと、印鑑偽造などの被害に遭い詐欺などのトラブルに見舞われる可能性があるため、法定相続人として手続きを行ううえで印鑑証明書は必須です。

なぜ相続で印鑑証明書が必要なのか

相続手続きで印鑑証明書が必要となる理由は、「相続手続きを円滑かつ確実に行うため」です。遺産分割や遺産の移転をはじめ、相続の手続きにおいては実印を求められるシーンが多くあります。

印鑑証明書があることで「この実印は確実に私のものです」と第三者に主張でき、第三者としても本人が自分の意思で捺印した書類であることを推認できます。

つまり、遺産分割協議書に実印を押し、金融機関に印鑑証明書をあわせて提出することで「私が自らの意思で書類に押印しました」ということを対外的に証明できるのです。 

相続で印鑑証明書が必要になるシーン

相続手続きを進めるにあたって、印鑑証明書が必要になるシーンは多くあります。印鑑証明書がないとほかの相続人に迷惑をかけてしまう可能性があるため、相続が発生したら速やかに用意することが大切です。

以下で、印鑑証明書が必要になる具体的なシーンを解説していきます。

遺産分割協議書を作成する

遺産分割協議書を作成するとき、相続人全員の実印と印鑑証明書の提出が求められます。遺言書がない場合は相続人による遺産分割協議がおこわなれますが、遺産分割協議書に実印を押すことで「私が、自分の意志で遺産分割の方法に納得しました」ということを証明します。

もし遺産分割協議書の作成で印鑑証明書の提出が求められない場合、法定相続人の中に遺産を相続させたくない者がいたときに、印鑑を偽造して勝手に遺産分割が進められる可能性がゼロではありません。

きちんと法定相続人全員が遺産分割協議に参加し、納得したうえで押印したことを証明するためにも、印鑑証明書は必須なのです。

なお、相続人が1人のときは遺産分割協議がそもそも行われないため、遺産分割協議書の作成も印鑑証明書も不要です。

銀行で預貯金を移す・株式などの名義変更をする

被相続人の銀行口座から相続人の銀行口座へ預金を移すとき、被相続人の証券口座から被相続人の証券口座へ株式を移転するときも印鑑証明書が必要です。

なお、銀行預金や株式を移転するときは、ケースに応じて必要な書類が若干異なります。

必要な書類
遺言書がある、または、相続人が1人 預金を相続する人の印鑑証明書
遺産分割協議書がある 相続人全員の印鑑証明書
家庭裁判所による調停調書、審判書がある 預金を相続する人の印鑑証明書

金融機関としても、印鑑証明書がないと「本当に本人の押印なのか」が判断できません。そのため、印鑑証明書の提出が必須となっています。

金融機関によっては「取得後〇カ月以内の印鑑証明書」のように、有効期限を定めているケースがあるため確認しておきましょう。

相続登記をする

被相続人名義の不動産から相続人へ所有権を移転する相続登記を行うときも、印鑑証明書が必要です。遺言書がある場合や相続人が1人の場合は印鑑証明書が不要ですが、それ以外の場合は相続人全員の印鑑証明書が求められます。

相続登記は法務局で行うことになりますが、法務局としても「本当に本人が自分の意志で押印したのか」を確認するために、原則として印鑑証明書を求めています。

保険金を受け取る

被相続人が死亡保険に加入しており、相続人が死亡保険金を受け取る時も、印鑑証明書が必要です。保険金受取人の本人確認を行うために、保険金の申請書とあわせて印鑑証明書の提出が求められます。

保険会社によって必要な書類は異なるため、事前に問い合わせておくと良いでしょう。

相続税を申告する

被相続人の遺産総額が相続税の基礎控除を超える場合は、相続税を申告しなければなりません。相続税を申告する際には、法定相続人全員の印鑑証明書が必要となります。

なお、遺言書があるときや相続人が1人のときは、遺産分割協議時と同様に印鑑証明書は不要です。

相続手続きで印鑑証明書は何通必要か

相続手続きを進めるにあたって、印鑑証明書は1枚で足ります。金融機関や法務局で印鑑証明書は提出するものの、印鑑証明書の原本は還付されるためです。

1通の印鑑証明書を使い回してさまざまな手続きに利用することが可能です。


ただし、郵送で相続手続きを進める際には、印鑑証明書の原本がしばらくの間手元から離れてしまうため、その間は相続手続きが滞る恐れがあります。相続手続きの申請先が複数あり、郵送するシーンがある場合は、印鑑証明書を3通程度用意しておくとスムーズに手続きを進められるでしょう。

また、地方銀行や信用金庫の内には印鑑証明書の原本がそのまま回収されて手元に戻ってこない可能性があります。

そのため、スムーズに相続手続きを進めるためにも、手続きする場所が多い場合は3通程度の印鑑証明書を用意しておくことをおすすめします。

印鑑証明書の取得方法

印鑑証明書は、自治体の窓口で入手するのが一般的です。自治体の窓口で印鑑証明書を入手する方法も存在するため、以下で解説していきます。

自治体の窓口で取得する           

自治体の窓口に足を運べば、即日で印鑑証明書を取得できます。

なお、自治体の窓口で印鑑証明書を取得する際は、印鑑登録時に発行される印鑑登録証(印鑑登録カード)が必要になるため、忘れずに持参してください。

コンビニ・自動交付機で取得する 

マイナンバーカードで公的書類を発行できる自治体であれば、コンビニでも印鑑証明書を取得できます。

コンビニで印鑑証明書を取得するには、印鑑登録が済んでおりマイナンバーカードを発行していることが前提となります。コンビニの自動交付機を活用すれば、わざわざ自治体の役所まで行かずに済むメリットがあります。

代理人に依頼する

印鑑登録証(印鑑登録カード)があれば、本人以外の代理人でも印鑑証明書を取得できます。自治体によっては、委任状や代理人本人の確認書類が求められるケースがあるため、事前に確認しておくと安心です。

もし日中に自治体の窓口へ行く時間がなく、マイナンバーカードを持っていなくても、代理人申請ができる点は押さえておきましょう。

印鑑を紛失した、登録していない場合の対処法

相続が発生した後に、登録した印鑑を紛失してしまったときや、まだ印鑑登録を済ませていないときの対処法を解説します。

必要なときにスムーズに印鑑証明書を用意できないと焦ってしまいますが、対処法を知っておけば冷静に対応できるでしょう。

実印を紛失したときは役所で手続きをする

印鑑登録は済ませているものの、肝心の登録した実印を紛失してしまうケースがあります。実印を紛失したときは、住民票がある役所で「登録印鑑亡失届出」と「印鑑の再登録」の手続きを行いましょう。

なお、自治体によって違いがあるものの、実印を紛失して新しく登録するときは、下記の書類などを用意する必要があります。

実印を紛失して新しく登録する際の必要書類
  • 印鑑登録亡失届書
  • 印鑑登録申請書
  • 新しく登録する印鑑
  • 本人確認書類

登録印鑑亡失届出を出すことで印鑑証明の交付を廃止でき、印鑑の再登録を行うことで、現在保有している実印を登録できます。新しい実印を登録すれば紛失した印鑑の効力は無効になるため、悪用されることもありません。

また、万が一のトラブルに備えるためにも、警察署で実印の紛失届や盗難届を出しておくと安心です。

印鑑登録をしていないときは役所で登録する

まだ印鑑登録を済ませていないときは、自治体の窓口で印鑑登録を行いましょう。

印鑑登録をする方法は、自治体によって異なるものの即日交付と後日交付の2つの方法があります。いずれの場合でも、必要な書類は下記のとおりです。

印鑑登録をする際の必要書類
  • 登録する印鑑
  • 本人確認書類
  • 印鑑登録申請書
  • 委任状(代理人が行う場合) 

後日交付を希望した場合、窓口で手続きをして数日後に「文書照会書兼回答書」が郵送されます。

届いた文書照会書兼回答書に必要事項を記入し、改めて窓口へ来庁すれば印鑑登録の手続きは完了です。

相続手続きを進めるために印鑑証明書は必須

相続手続きを進めるにあたって、印鑑証明書は3通程度用意しておくと安心です。印鑑証明書は「自分の意志で押印した」ことを証明する大切な書類ですから、早い段階で印鑑登録の有無を確認しておきましょう。

印鑑証明書がないと遺産分割がスムーズに進まず、ほかの相続人に迷惑をかけてしまうこともあります。

また、いつまでも被相続人の遺産の名義変更ができず、処分できない事態にもなりかねません。

相続が発生したら、さまざまなシーンで印鑑証明書が必要になるため、相続手続きをスムーズに進めるためにも印鑑証明書を用意しておきましょう。

ほかにもこちらのメディアでは、相続の委任状について遺産相続で裁判になった場合についても解説しています。ぜひこちらの記事もご確認ください。