万が一、家計を支えてくれている家族が亡くなったとしたら、これからの生活に不安を覚えるかもしれません。年金制度には、そんなリスクに備えた遺族年金という仕組みが備わっています。
とはいえこの年金制度は、家族構成やどの年金に加入しているかによっていくらもらえるのかが大きく変わります。
そこで今回の記事では、受給額の計算の仕組みやケース別のシミュレーションについて、詳しく解説していきます。
- 遺族基礎年金は受け取る子の人数で金額が決まる
- 遺族厚生年金は被保険者の報酬額を反映した複雑な計算が必要
- 遺族厚生年金の額を知りたいときは、ねんきん定期便を参考に
遺族年金は2種類ある
遺族年金とは、国民年金や厚生年金の加入者が亡くなった際に支給される、残された家族を支える年金です。
日本の年金制度は、20歳以上の国民全員に加入が義務付けられた国民年金と、会社員や公務員の方が加入する厚生年金の2種類の制度があり、どちらの年金に加入しているかによって受給要件や金額が異なります。
これに対応して、遺族年金も「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」という2つの仕組みがあり、「遺族年金がいくらもらえるのか」や「誰がもらえるのか」に差があるのです。
被保険者が一定の年齢に達したときに受け取れる老齢年金と同様に、誰もが被保険者になる遺族基礎年金が1階部分、厚生年金加入者だけが対象になる遺族厚生年金が2階部分という、「2階建て構造」で運営されています。
遺族年金を受け取ることも死後手続きの1つであるため、構造や具体的な金額などを把握しておきましょう。
遺族基礎年金は子がいる遺族に支給される
国民年金に組み込まれている遺族基礎年金は、子どもがいる遺族を対象に支給される年金制度です。具体的には、18歳未満の子どもがいる配偶者、もしくは18歳未満の子ども自身に支給されます。
- 18歳未満の子どもがいる配偶者、もしくは18歳未満の子ども自身
また両方の遺族年金に共通して、「被保険者によって生計を維持されていたこと」が条件とされています。
生計を維持されていたとは、分かりやすくいえば、その方の収入によって暮らしていたことです。仮に単身赴任の被保険者が亡くなったとしても、その方に養われていた子どもは受給要件を満たします。
遺族厚生年金は厚生年金加入者が受給できる
遺族厚生年金は、厚生年金に加入している会社員や公務員の遺族だけが受給できる年金制度です。子どもがいなければ受給できない遺族基礎年金とは異なり、子どもがいない配偶者や親なども、年齢などの要件に合致すれば受け取れます。
- 子どもを持つ配偶者
- 子どもがいない配偶者や親など
さらに、子どもを持つ配偶者が遺族厚生年金を受給する場合には、遺族基礎年金と合わせて受け取ることが可能です。
ただし、厚生年金保険に加入しているのは、株式会社などの法人に勤める会社員や公務員、従業員が常時5人以上いるなど一定の要件を満たした個人事業所に勤める方です。それ以外の個人事業主などは加入自体ができません。
受給対象となる遺族の範囲が広い反面、制度への加入に条件が設けられているのです。
遺族基礎年金の受給額
遺族基礎年金の受給額は、受給権の発生を決める子どもの人数に応じて決まります。子の養育を主眼に据えた年金制度という性質を持つからです。
子どもを持つ配偶者であれば、基本的な支給額に加えて子の加算額が支給されます。子どもだけが受給する場合には1人目の子どもが基本の支給額を受け、2人目からが加算額で計算される仕組みです。
遺族基礎年金の額は家族構成で決まる
2023年度の支給額は、最低支給額79万5,000円に、子の加算額(子の人数に応じて決められる額)を足して算出します。子の加算額は、1人目と2人目の子は22万8,700円、3人目以降の子は1人につき7万6,200円です。
- 最低支給額:79万5,000円
- 子の加算額(1人目と2人目):22万8,700円
- 子の加算額(3人目以降):7万6,200円
子どもを持つ配偶者が受給する場合は「79万5,000円+子の加算額」、子どもだけが受給する場合は「79万5,000円+2人目以降の子の加算額」となるのです。
受給対象とされる子は、18歳未満で未婚の子という要件がありますから、子どもが18歳になった年度の3月31日をもって、この加算額が減らされていきます。
最終的にすべての子どもが受給要件を満たさなくなった時点で、配偶者への支給も停止されるのです。
家族構成による遺族基礎年金の受給額早見表
遺族基礎年金は家族構成によって金額が決まります。以下の表で確認してみましょう。
子どもを持つ配偶者が受け取る場合 | 子どもが受け取る場合 | |
---|---|---|
子ども1人 | 102万3,700円 | 79万5,000円 |
子ども2人 | 125万2,400円 | 102万3,700円 |
子ども3人 | 132万8,600円 | 109万9,900円 |
子ども4人 | 140万4,800円 | 117万6,100円 |
遺族厚生年金の受給額
遺族厚生年金の年金額は、死亡した被保険者の老齢厚生年金の「報酬比例部分の3/4の額」と規定されています。遺族基礎年金のように、一律の金額が決まっているわけではありません。
国民年金が加入者全員一律の保険料を採用しているのに対して、厚生年金は被保険者の収入に応じて保険料が異なる仕組みを採用していることに起因しています。
老齢年金をみても、国民年金の支給額は加入月数だけで決定され、厚生年金は納めた保険料に応じて支給額が異なります。
ただし、厚生年金に25年以上加入していない被保険者の場合には、25年間加入していたとみなして計算する仕組みです。これによって若い方が亡くなった場合でも、遺族が一定水準の年金を受け取れるように担保しているのです。
遺族厚生年金は被保険者の報酬で決まる
遺族厚生年金の支給額は、被保険者が納めた保険料によって決まります。言い換えれば、その方の報酬額で決まるのです。
保険料の額は、被保険者の収入に対するパーセンテージで定められています。2023年9月現在で適用されている保険料率は18.3%で、これを事業者と加入者で折半して負担する仕組みです。
ただし、毎月の給料にそのまま料率を掛けて計算するのではなく、報酬額を一定の金額ごとに区分して定めた「標準報酬月額」を基準に算出します。
報酬額が9万3,000円未満であれば「1等級の8万8,000円」、9万3,000以上10万1,000未満は「2等級の9万8,000円」などと32等級に分かれており、それによって保険料が決まるのです。
ここで挙げた「8万8,000円」や「9万8,000円」が標準報酬月額で、保険料算出の目安としてだけでなく、支給額の算出にも反映されます。
報酬比例部分とは?
報酬比例部分とは、前述した標準報酬月額に応じて決定される、年金額の計算の基礎となるものです。
納めた保険料が多ければ多いほど支給額も多くなる仕組みで、老齢厚生年金だけでなく遺族厚生年金にも影響を及ぼします。
報酬比例部分の計算では、毎月の標準報酬月額以外にも、標準賞与額を加えた総額を月数で割った、「平均標準報酬額」を用います。
以下の計算式で求められますが、2003年4月を境に賞与の扱いが変わったため、この2つを別々に算出して加算しなければなりません。
非常に複雑な計算ですから、ご自身で計算するよりも、毎年の誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」を参考にすると良いでしょう。
ねんきん定期便には、保険料の納付額や加入実績に応じた年金額などが記載されています。ねんきん定期便が手元になければ、日本年金機構に問い合わせてみるのも1つの方法です。
- (A)2003年3月以前の加入期間
平均標準報酬月額×7.125/1000×2003年3月までの加入月数 - (B)2003年4月以降の加入期間
平均標準報酬額×5.481/1000×2003年4月以降の加入月数 - (A)+(B)=報酬比例部分
中高齢寡婦加算とは?
中高齢寡婦加算は、1階部分に相当する遺族基礎年金を受け取ることができない妻に対して支給される年金です。
遺族年金は子どもがいなければ支給されないため、仮に専業主婦で十分な収入がなかったとしても、遺族厚生年金しか受け取れません。
特に、一定の年齢に達すると就職がより困難になることが予想されるため、そのリスクを考慮して設けられた制度です。
- 夫の死亡時に40歳以上65歳未満で、生計が同一の子がいない妻
- 18歳到達年度の末日に達したなどの理由で、遺族基礎年金が停止された妻
この要件に該当すると、40歳から65歳までの間、遺族基礎年金の3/4に相当する額が加算されます。
経過的寡婦加算とは?
経過的寡婦加算は、中高齢寡婦加算を受けていた受給者が65歳になったとき、一定の要件のもとに中高齢寡婦加算に代わって支給される年金です。
老齢基礎年金と中高齢寡婦加算の支給額を比較すると、中高齢寡婦加算のほうが高額である可能性も否めません。この場合、受給者が65歳に達し、自分の老齢基礎年金を受給すると、受給額が低くなる事態が生じます。
このような年金額の低下を補う措置が経過的寡婦加算で、老齢基礎年金と中高齢寡婦加算の差額が支給されるのです。
また65歳以降に初めて遺族厚生年金の受給権が得たときも同様に、経過的寡婦加算の対象となります。この場合も老齢基礎年金の額が中高齢寡婦加算の額よりも低ければ、その差額に相当する金額が支給されるのです。
遺族年金のケース別シミュレーション
遺族年金の金額は、故人がどの年金制度に加入していたか、故人が誰を養っていたかなど、さまざまな要因で決定されます。
配偶者と子ども1人の家族を例に挙げて、受給額のシミュレーションをしてみましょう。
被保険者が自営業者の場合
被保険者が自営業者の場合には、国民保険の第1号被保険者です。この場合は国民年金しか加入していないため、遺族厚生年金は対象外となります。
遺族基礎年金は子どもの人数に応じて決まりますから、先に記載した「家族構成による遺族基礎年金の受給額早見表」に当てはめて算出できます。
- 子どもが1人いる配偶者が受け取る場合の年金額:102万3,700円
なお、遺族年金は非課税とされているため、ここから所得税などが引かれることはありません。
被保険者がサラリーマンの場合
被保険者がサラリーマンであった場合には、遺族基礎年金の金額を算出したうえで、遺族厚生年金の額をプラスします。
先に挙げた「配偶者と子どもが1人」の事例では、遺族基礎年金102万3,700円に遺族厚生年金の額を加算するのです。
平均標準報酬額が40万円で、加入して10年間の被保険者であったと仮定してみましょう。その場合は以下の計算式で求めます。
- 40万円×5.481/1000×300(このケースでは300カ月とみなす)×3/4=49万3,290円
この場合は遺族基礎年金の受給対象にも該当しますから、遺族基礎年金から102万3,700円、遺族厚生年金から49万3,290円の合計額が支給されるのです。
- 子どもが1人いる配偶者が受け取る場合の年金額:151万6,990円
ただし、年金制度はこれまでにさまざまな改正が行われているため、被保険者の年齢などによっても乗率が異なる場合があります。
これはあくまでも目安にしかすぎないため、正確な金額は日本年金機構に問い合わせることをおすすめします。
老齢厚生年金の受給権を持つ場合
65歳以上で遺族厚生年金の受給権を持つ方であれば、ご自身の老齢厚生年金も受け取れる場合があるでしょう。この場合は原則として、老齢厚生年金が全額支給されることになります。
遺族厚生年金が支給されるのは、遺族厚生年金の額が老齢厚生年金よりも高いケースに限られます。この場合、あくまでもその差額だけが遺族厚生年金として支給されるのです。
遺族年金がもらえないケース
遺族年金を受給するためには、このほかにも被保険者や遺族に求められるさまざまな要件があります。
遺族年金がもらえない代表的なケースを見てみましょう。
3分の1以上の保険料未納期間がある場合
遺族年金は強制加入とされる国民年金の制度の一部ですから、原則としてすべての国民が対象となっています。
しかし、保険料納付済期間と保険料免除期間を足した期間が、すべての加入期間の2/3以上を占めていなければ、遺族基礎年金の受給要件を満たしません。
つまり、全期間を通じて1/3以上の保険料未納期間がある場合には、遺族年金を受け取れないのです。
保険料をしっかりと納めていなければ、遺族年金がもらえないことを覚えておきましょう。
配偶者が再婚した場合
遺族年金を受け取るための要件には、亡くなった被保険者によって生計を維持されていたことが挙げられています。
これは需給を開始した後でも同様で、例えば配偶者が再婚してその方の扶養に入ったような場合には、遺族年金の支給は打ち切られます。
子どもに関しても、例えば祖父母が現役で働いていることから、その養子に入ったようなケースでは、こちらも支給の対象外とされるのです。
労災保険にも遺族年金がある
通勤中や業務中の事故などで亡くなった場合には、労働者災害補償保険に設けられた遺族年金が受給できるかもしれません。
労働保険は、パート・アルバイトを含め労働者を1人でも雇っていれば加入しなければならない保険です。自ら経営している立場を除いては、勤務中の事故などを幅広くカバーしています。
労災保険の遺族(補償)年金
遺族(補償)年金は、労働災害で亡くなった方の収入で生計を維持していた遺族が受け取れる年金です。
対象者などは遺族厚生年金に近い仕組みを採用しており、配偶者や子ども、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹が、優先順位によって受給権を得ます。
ただし、妻以外の遺族が受給する場合には、年齢などに制限が設けられています。
夫や親など、つまり大人が受給する場合は55歳以上の方などが対象で、60歳になると支給が開始されます。子どもや孫の場合は18歳到達年度末までの方が対象です。
このほかに、一定の障害などに応じて受給できる方の範囲が広がる仕組みです。
年金額は遺族の人数によって決まります。遺族が1人の場合は給付基礎日額の153日分で、55歳以上の妻または一定の障害状態にある妻の場合は175日分です。
2人の場合は201日分、3人は223日分、4人以上は245日分となります。
労災保険の遺族(補償)一時金
遺族(補償)一時金とは、遺族(補償)年金を受給する遺族がいない場合などに発生する給付金です。
支給額は給付基礎日額の1,000日分で、すでに支給された遺族(補償)年金などがあれば、その金額が差し引かれます。
例えば支給を受けていた子どもが1,000日分を受け取る前に18歳の年度末を迎え、他に受給権者がいない場合などに、「最低でも1,000日分は支給しますよ」という仕組みといえば分かりやすいでしょう。
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