相続手続きをしなかったらどうなる?放置のリスクとデメリットを解説

相続が発生したものの、そのまま手続きをせずに放置した場合はどうなるのでしょう?

相続財産は相続人全員が法定相続分で共有したものと扱われ、それぞれの相続人は何の処分もできなくなってしまいます。

第三者に相続人であることを明示する術もありませんから、預金をおろすことすらできなくなるのです。

もし相続が発生して手続きをしなかったら?そのリスクとデメリットを詳しく見ていきましょう。

1分でわかる!記事の内容
  • 相続手続きをしないと借金を相続するなどのリスクが生じる
  • 相続税申告や不動産登記を怠るとペナルティが発生する
  • 相続手続きの放置には過大なリスクがある

 

相続手続きをしなかったらどうなる?リスクやデメリット

相続放棄の申述相続税の申告など、相続手続きを進める上で明確に期限が定められたものがいくつかあります。

仮にこれらの処理が滞り、期限に間に合わなかったとしたら、ペナルティが課せられて金銭的な負担が生じたり、余計なトラブルを生む恐れが生じたりする可能性が否めません。

手間と時間がかかる相続手続きであっても、放置することには大きなリスクが潜んでいます。

遺産の権利が消滅する

相続という行為自体は、「いつまでに完了しなければならない」という期限が明確に規定されたものではありません。税法など、関連する法律に規定されたペナルティが課されたりする可能性はあるものの、時間の経過によって相続ができなくなるという性質のものではないのです。

しかし相続財産の中には、一定期間の経過によって権利が消滅するという性格の資産が含まれている可能性があるでしょう。そのような遺産が受け取れなくなる恐れがあるのです。

預貯金を例に挙げましょう。

預貯金は法律上、預貯金請求権という債権に当たり、5年の経過で消滅時効にかかります。銀行が時効を援用しない限りは実行されないため、現実的に預金が消滅したという例を聞いたことはありませんが、法律上の扱いとしては「銀行側の一存でいつでも消滅するお金」という位置づけになってしまうのです。

株式などの権利が消滅する

株式などの有価証券も、権利が消滅するリスクのある資産といえるでしょう。

5年以上に渡って株主名簿に記載された住所あての通知が届かず、剰余金の配当も受領していない株主のことを所在不明株主といい、所在不明株主が所有する株式は会社側が一定の手続きを経ることで売却することができるとされています。

相続人には売却代金を請求する権利が発生しますが、この権利も売却日から10年で時効によって消滅してしまうのです。つまり相続手続きを放置することによって、株式などの権利が消滅するリスクが発生します。

相続回復請求権や取戻権が消滅する

複数の相続人で遺産を分割する共同相続の場合、すべての相続が円満に進むとは限りません。遺産の取り分を巡って争いが生じる可能性も、決してないとは言い切れないでしょう。

仮に共同相続人の1人が法定相続分を超えて財産を取得し、ほかの人の相続分を侵害しているような場合には、侵害された相続人は相続回復請求権を行使することができます。

さらに極端な例を挙げれば、相続人でないにもかかわらず相続財産を不法に取得した相手に対しても、相続回復請求権を行使することが可能です。

また、共同相続人の1人が遺産分割前に相続分を第三者に譲り渡したときは、他の相続人はその相続分を買い戻すことができるとする規定があり、これは「相続分の取戻権」と呼ばれています。

いずれの手続きも期限が定められており、相続回復請求権は「相続権の侵害を知ってから5年以内もしくは相続開始から20年以内」、相続分の取戻権は「相続分の譲渡が行われてから1か月以内」に権利を行使しなければなりません。

遺留分侵害額請求ができなくなる

遺留分とは、配偶者や子、親など、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められた、最低限の遺産を取得できる権利のことです。

法定相続分の半分が遺留分に相当する割合で、相続できる財産がこれを下回ったときには「遺留分侵害額請求」として最低限の遺産を取得する権利を主張することができます。

この遺留分侵害額請求にも期限が定められており、相続開始と遺留分の侵害があったこと知ってから1年以内に行使しなければなりません。遺留分の侵害を相続人が知らなかったとしても、相続開始してから10年で権利が消滅することも覚えておきましょう。

相続手続きをする際の注意点

相続手続きを進める上では、知っておかなければならないいくつかの重要なポイントがあります。これを認識しておかなければ、相続によって大きな損害を被ったり、ペナルティが課されたり、手続きの煩雑化を招いたりするリスクが生じるのです。

借金の相続が大きなリスクになる

相続財産といっても、なにもプラスの資産だけとは限りません。借金や保証債務など、相続人にとってマイナスとなる財産も相続してしまう可能性があるのです。

相続人がこのような負債を相続することで大きな不利益を被る危険性を回避する手段として、相続放棄と限定承認という仕組みがあります。

相続放棄は資産も負債もすべて相続しないという選択肢、限定承認は資産から負債を差し引いてプラスになる場合だけ相続するという選択肢です。いずれの選択も、相続開始を知ったときからから3か月以内に家庭裁判所に申述をしなければなりません。

この期間を過ぎると単純承認を選択したとみなされ、例え被相続人に多額の借金があっても逃れることができなくなるのです。

預貯金を引き出すにも条件がある

相続開始後は、被相続人の口座は凍結されて一切の取引ができなくなります。凍結を解消するには遺産分割協議書が必要とされるため、相続手続きを怠ると預金をおろすこともできません。

さらに2018年に施行された「休眠預金等活用法」で、2009年以降の10年間に渡って取引のない預金を休眠預金とし、預金残高が預金保険機構に移管されることとなりました。相続手続きをしないまま10年間放置すると、休眠預金として扱われる可能性が生じるのです。

休眠預金として移管されても、所定の手続きを経ることで元金と利息を引き出すことができるため、預金自体が消滅するわけではありません。

しかし引き出しには窓口での手続きが必要で、通常よりも長い時間を要したり、金融機関によっては口座管理手数料がかかるケースもあるので注意しましょう。

休眠預金は、前述した「預金債権の消滅時効」とある種矛盾する規定となりますが、休眠口座に該当するのは普通預金や定期預金、貯蓄預金などに限られます。外貨預金などは休眠預金の対象とされないため、言い換えれば消滅時効のリスクが否めない資産といえるでしょう。

相続税にはペナルティがある

相続手続きを怠った場合に発生するデメリットの中でも、明確に規定されたものの一つが相続税のペナルティでしょう。

相続税は相続開始から10か月以内に申告することが義務付けられていますが、申告や納税が遅延した場合には無申告加算税や延滞税などの追徴が発生します。

無申告加算税は申告自体をしなかった場合に課される税金で、納付すべき税額が50万円までは15%、50万円を超える部分は20%の税率です。

納税が遅れた場合に課されるのが利息に相当する延滞税で、納期限の翌日から2か月を経過する日までは年7.3%、2か月経過後は年14.6%の率で課されます。

相続税に関する手続きは、相続で発生するさまざま処理の中でも高度の専門知識を必要とするものの一つです。

不動産における大きなリスク要因

相続財産に不動産が含まれる場合には、所有権の登記についても認識しておかなければなりません。不動産の所有権を第三者に主張するためには登記が必要とされていますが、この扱いはあくまでも「所有者の権利」という位置づけです。

しかし不動産登記法の改正により、2024年4月1日から相続登記が義務化されます。

法令改正による相続登記の義務化

改正不動産登記法では、不動産を取得した相続人は「所有権を取得したことを知った日」から3年以内に相続登記の申請をすることが義務付けられました。これを怠ると「10万円以下の過料」という罰則も設けられた規定です。

相続登記を完了するには、「被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取得して相続人を確定する」「遺産分割協議で不動産を取得する相続人や持分割合を確定する」などの一連の相続手続きが不可欠です。

制度の改正に合わせて「所有者が相続人に変わること」だけを暫定的に登記する相続人申告登記という制度も開始されますが、いずれの手続きもしなければ上記の罰則の対象となるのです。

参考:法務局「相続登記の申請の義務化と相続人申告登記について

二次相続の発生

不動産の相続では、二次相続の発生により権利関係が複雑になることにも注意が必要です。

不動産の所有者や持分割合を確定して登記をする手続きを怠った状態で共同相続人の1人が亡くなった場合には、その持分がさらに細分化されることによって処分自体が困難になる可能性が否めません。

確かに法律上では、特定の相続人が不動産を取得することを決めずに共同相続人全員で共有することも可能です。しかし実際にこの方法を用いると、二次相続が発生した際に共有者の持ち分がさらに細分化される事態を招きます。

不動産を売却する際などには共有者全員の合意が必要になるため、持ち分があまりにも細分化されていると、全員の合意を得ることが難しくなる可能性が否めないのです。

空き家の放置

使用していない不動産、つまり空き家を相続した場合のリスクも重大です。

空き家は火災などの危険性や景観を損なうなどの問題点が指摘されており、2015年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」で、このような問題点がある空き家を「特定空き家」と認定する制度が生まれました。

空き家を取得した相続人がこれを放置し特定空き家と認定されれば、改善を求める行政指導や勧告の対象にもなり得るのです。

老朽化した屋根が落下して通行人に怪我を負わせれば所有者責任が追及されるなど、相続した空き家を放置することで生じるリスクは計り知れません。

手続きのポイントになる期限

相続手続きの中でも、特に大きなリスクやデメリットが生じる可能性のあるいくつかのポイントがあります。

とくに相続放棄や限定承認の選択期限である3か月と、相続税の申告・納付期限である10か月というポイントは、しっかりと頭に入れておきましょう。

相続放棄と限定承認(3か月)

被相続人に多額の借金がある場合など、遺産を相続することによるデメリットがメリットを上回るケースもあるでしょう。このような場合には相続放棄と限定承認を選択する必要がありますが、この期限は相続開始から3か月以内とされているのです。

いずれの手続きもしなかった場合には、当然に単純承認を選択したとみなされます。

また、相続手続きを経ずに勝手に相続財産を使ってしまった場合なども、相続放棄や限定承認を選択することができなくなることも覚えておきましょう。

相続税の申告(10か月)

相続税の申告・納付期限は相続開始から10か月とされており、この期限を過ぎた場合には前述した通り無申告加算税や延滞税といったペナルティの対象となります。

相続財産の総額が基礎控除額を超えない場合には申告の必要はありませんが、「小規模宅地等の特例」や「配偶者控除」など相続税の軽減につながる特例の適用を受ける場合には申告が必要です。

死亡保険金の受け取り(3年)

死亡保険金は厳密に言えば相続財産には当たりませんが、被相続人の死亡によって受け取りの権利が発生するという点では相続に近い性質といえるものです。この保険金を請求する権利も、3年以内に行使しなければ消滅することを覚えておきましょう。

しかし実際には、受け取れる保険金があることを受取人が知らない可能性も考えられます。

仮に被保険者の死亡から3年以上が経過した後に保険契約書が見つかった場合などに関しては、支払いに応じてくれるケースもありえます。契約先の保険会社に問い合わせてみるとよいでしょう。

相続手続きを円滑に進める対策は?

相続手続きを円滑に進めるには、特に有効ないくつかの対策があります。相続開始前にしておきたい準備も含まれますから、相続が発生していない人もしっかりと把握しておきましょう。

専門家へ依頼する

相続手続きにはさまざまな専門知識が必要で、一つ一つの作業にも時間と労力を要するものが少なくありません。

相続手続きを自分でが進めようとして時間を浪費してしまうくらいであれば、専門家への依頼を検討してみるとよいでしょう。相続を扱う士業といえば、弁護士や税理士、司法書士、行政書士などが挙げられます。

相続手続きの代行を依頼する専門家は、以下のような基準で選べば良いでしょう。

最適な専門家の選び方
  • 遺産分割で争いがあるので場合:弁護士
  • 相続財産が基礎控除額を超える場合:税理士
  • 相続財産に不動産が含まれる場合:司法書士
  • いずれにも当てはまらない場合:行政書士

 

各専門家へ相続手続きの依頼する際には費用がかかるので、その点は注意しておきましょう。

遺言書を準備する

相続手続き、特に遺産分割をトラブルなくスムースに進めるためには、被相続人が生前に遺言書を作成しておくことが有効です。

特に「自宅を特定の相続人に遺したい」など、単純に法定相続分で決められない場合には、遺言書の有無が極めて重要になります。正式な遺言書には期限がなく法的拘束力がありますから、法定相続人以外に財産を贈りたいなどの希望も叶えることができるのです。

相続手続きに関するよくある質問

さらに相続について理解を深めて円滑な手続きを進めるために、よくある質問もチェックしておきましょう。

遺産分割協議をしないとどうなる?

遺産分割協議とは、複数の共同相続人に配分する財産を決める手続きです。相続人全員の合意があれば、法定相続分とは異なる分け方で遺産を分割することも可能とされています。

では、遺産分割をしないでいるとどうなるのでしょう?

相続財産は原則として法定相続分の割合で分割される仕組みですから、遺産分割協議をしなければ「相続財産全体を相続人全員が法定相続分の持ち分で共有している状態」となります。

つまり銀行口座の名義変更や不動産の売却などの財産の処分が、単独の相続人では一切できない状態となってしまうのです。

相続する金額が少ない場合でも手続きは必要?

仮に相続財産の総額が少なく、共同相続人全員が法定相続分での分割に異論がない状態であったとしても、相続手続きが必要ないわけではありません。

相続手続きは、銀行などを含めた第三者に対して、相続人が正当な権利を有することを証明する手続きであるといえるからです。銀行が被相続人の口座を凍結するのも、第三者が不正に預金を引き出したりすることを防ぐためです。

相続手続きが行われていなければ、銀行側は「第三者が不正に預金を引き出そうとしているのか」「正当な権利を有する相続人か」の区別が付きません。

このため被相続人の預金をおろすこともできなくなってしまうのです。

遺産相続が発生しているのに何も言ってこない場合はどうすればよい?

複数の相続人で相続手続きをする場合、銀行での預金の引き出しや固定資産税納税通知書の受領などを担当する「代表相続人」を選ぶ必要があります。この代表相続人には特定の決め方などはなく、選ばれるべき優先順位もありません。

相続人であれば誰でも、代表相続人になることができるのです。

相続においては「誰が率先して手続きをリードしなければならない」という規定は存在しません。受け身の姿勢で「何も言ってこない」と考えて放置していると、遺産相続の手続きに充てられる時間だけがなくなってしまいます。

誰かから声がかかるのを待つのではなく、自ら共同相続人に声をかけることが大切なのです。

相続手続きの期限が過ぎた場合の対処法は?

決められた手続きを過ぎた場合でも、その内容と事情いかんによっては対応策が取れる可能性もゼロではありません。

たとえば相続放棄では3カ月以内に家庭裁判所に申述をしなければなりませんが、期限を超えてしまっても事情によっては相続放棄が認められる可能性もあるのです。

多額の借金を背負った被相続人、という状況を想定してみましょう。

法定相続人である配偶者や子供などの全員が相続放棄をして、相続順位が下位である兄弟の自分が相続人となってしまう可能性も十分にあり得ます。

このようなケースで期限内に相続放棄ができなかったからといって借金を背負ってしまうのでは、順位が下位の相続人にとっては非常に不利といえるでしょう。

期限に遅れた背景などを考慮して合理的な理由がある場合には、期限が過ぎたからといって絶対に相続放棄が認められないわけではないのです。

もちろん期限を超えた手続きの種類や理由によって対応策はさまざまですから、まずは専門家に相談してみると良いでしょう。

相続手続きの放置には過大なリスクがある

相続手続きを放置することは、本来受け取れるはずの資産を受け取れなくなるばかりか、逆に負債を背負ってしまう可能性があるほど危険な行為です。

特に借金を背負うリスクや放置した空き家で損害賠償請求を受けるリスクなどに関しては、悔やんでも悔やみきれないほどの損害が発生する恐れもあるでしょう。

そうならないためにも、できるだけ早く手続きに着手することをおすすめします。

ほかにもこちらのメディアでは、遺産相続手続きの期限遺産分割協議をしない場合についても解説しています。ぜひこちらの記事もご確認ください。