生命保険は相続財産に含まれる?相続税がかかる具体例を解説

身内が亡くなったときに、生命保険を相続財産に含めるべきかわからずに悩んでいる方は多いでしょう。

相続手続きにおける保険金の扱いは、受取人がどのように指定されているかによって対応が変わるので注意が必要です。

この記事では、生命保険と相続の関係について解説するとともに、相続税がかかる具体例を紹介します。被相続人が生命保険に加入しており、その死亡保険金を受け取る予定がある方は必読です。

1分でわかる!記事の内容
  • 生命保険は相続財産や遺産分割に含まれないが例外ケースもある
  • 死亡保険金は非課税枠を超えると相続税が課税される
  • 相続放棄した人も死亡保険金を受け取れるが非課税枠は使えない

生命保険は相続財産に含まれる?

はじめに、生命保険が相続手続き上どのように扱われるのかを解説します。

生命保険は相続財産に含まれない

生命保険の死亡保険金は被相続人(死亡した人)の財産ではなく、受取人固有の財産としてみなされるため、相続財産には含まれません。

平成14年11月5日に最高裁が下した判決では、死亡保険金は受取人に帰属する財産となり、相続財産にはならないという確立した判断がなされています。

参考:裁判所-判例

生命保険金は被相続人から承継取得するものではなく、保険金の受取人が自己の固有の権利として取得するものであることから、相続の対象財産にはならないと判断したわけです。

生命保険は遺産分割の対象外になる

生命保険は相続財産に含まれないので、遺産分割の対象にはなりません。そのため、保険金の請求時に相続人間で遺産分割協議をする必要はなく、遺産分割協議書への記載も不要です。

遺産分割の対象外なので、預貯金のように保険金を他の相続人に分配する義務はありません。

保険金の受取人が指定されている場合は、その受取人が保険金の全額を受け取れます。受取人が法定相続人に含まれない場合でも、保険金は受け取れます。

生命保険が相続財産に含まれる例外ケース4選

原則として保険金は相続財産にはなりませんが、以下のような例外ケースもあります。

  • 特別受益に該当する場合
  • 生命保険の受取人を指定していない場合
  • 生命保険の受取人が死亡している場合
  • 生命保険の受取人が本人の場合

それぞれの例外ケースについて解説します。

特別受益に該当する場合

死亡保険金は相続財産に含まれないのが原則ですが、特別受益に該当する場合は保険金が相続財産の対象となる場合があります。

特別受益とは、一部の相続人だけが被相続人から生前贈与などで受け取った利益のことです。特別受益のあった相続人は相続財産を引き戻し、相続人間で平等に分配しなくてはなりません。

死亡保険金は相続財産の総額より高額な場合があります。保険金の受取人は、保険金とは別に相続分の財産を相続できますが、他の相続人は不満に感じる方もいるでしょう。

そこで他の法定相続人との不公平をなくすために、保険金が高額な場合は死亡保険金を特別受益としてみなすべきという最高裁の判断があります。

参考:裁判所-判例

平成16年10月29日の最高裁決定は、保険金受取人である相続人とその他の相続人との間に生ずる不公平が著しい場合に、保険金請求権を特別受益に準じて持ち戻すべきと述べています。

保険金が遺産分割の対象となる可能性があるのは、以下のケースに該当する場合です。

保険金が遺産分割の対象となる可能性があるケース
  • 保険金の金額が遺産総額よりも高額である
  • 被相続人とは疎遠だった人が多額の保険金を受け取った
  • 経済的に困窮している相続人ではなく、裕福な相続人が多額の保険金を受け取った

例外の基準に該当する場合、受取人は死亡保険金を独り占めできません。そして、保険金の額を遺産総額に加算して遺産分割をする必要があります。

生命保険の受取人を指定していない場合

契約者が生命保険の受取人を指定していなかった場合は、法定相続人が受取人になります。受取人を特定の人物ではなく、単に相続人とだけ指定していた場合も、各相続人が保険金を受ける権利を相続します。

受け取る割合は、一般的には民法上の法定相続分の割合で分割されます。受取人を指定していない場合における保険金の扱いは、契約の約款(やっかん)に記載されていることが多いです。

約款とは保険会社との間に結んだ契約のことで、支払う額や条件などがまとめられています。各保険会社のホームページから検索できるケースが多いため、事前に確認しておきましょう。

生命保険の受取人が死亡している場合

生命保険の受取人が契約者よりも先に亡くなっており、そのまま受取人が変更されていない場合は、受取人の相続人が保険金を受け取ります。保険金は法定相続分で分けるのではなく、均等に分割するのが一般的です。

生命保険の受取人が本人の場合

あまり見られないケースですが、生命保険の受取人が契約者本人だった場合は、保険金は相続の対象となります。保険金は死亡した本人の財産となるため、例外的に相続財産に含まれるのです。

生命保険に相続税はかかる?かからない?

生命保険に対して相続税が課税されるケースは以下のとおりです。

  • 非課税枠を超えると相続税がかかる
  • 受取人が兄弟姉妹の場合は相続税がかかる
  • 所得税や贈与税がかかることもある

それぞれのケースについて解説します。

非課税枠を超えると相続税がかかる

死亡保険金の非課税枠は「500万円×法定相続人の数」とされており、この金額を超えた部分に相続税が課されます。

  • 死亡保険金の非課税枠=500万円×法定相続人の数

生命保険は相続財産ではないため、本来なら相続税は課されないはずです。しかし、相続税法において保険金は「みなし相続財産」とされるため、相続税を算出する際は相続財産に含まれます

みなし相続財産とは、本来は相続財産ではないものの、相続によって取得する財産であることから、相続財産とみなされる財産のことをいいます。

相続税は課されますが、保険金は控除額が大きいため、相続税の節税が可能です。

受取人が兄弟姉妹の場合は相続税がかかる

契約者が保険の受取人に兄弟姉妹を指定している場合、契約者と被保険者は同一なので、保険金には相続税が課されます。

兄弟姉妹が法定相続人の場合は、非課税枠(500万円×法定相続人)が適用されて相続税が軽減されます。

しかし、法定相続人以外が保険金を受け取る場合は、非課税枠は適用されません。兄弟姉妹が法定相続人になるには、以下の条件があります。

兄弟姉妹が法定相続人になる条件
  • 被相続人本人が独身で、両親もすでに他界している
  • 被相続人に配偶者はいるが子どもがおらず、両親もすでに他界している

兄弟姉妹が法定相続人か否かで税負担が変わってくるので、保険契約の前にしっかりと確認しておきましょう。

所得税や贈与税がかかることもある

相続税ではなく、贈与税や所得税など別の税が課せられることもあります。契約者、被保険者、受取人の関係で保険金にかかる税金の種類が異なるので要注意です。

贈与税がかかるケース契約者、被保険者、受取人がすべて異なる場合
所得税がかかるケース契約者と受取人が同一人物の場合
相続税がかかるケース契約者と被保険者が同一人物の場合

贈与税が課税されるのは、契約者・被保険者・受取人がすべて異なる人物の場合です。

例えば、被保険者が夫で契約者が妻、受取人が子どもだった場合、夫が亡くなると保険金は子どもに支給されます。しかし、保険金を支払っていた妻は健在であるため、この場合は妻のお金が子どもに渡った生前贈与と捉えられて、贈与税がかかります。

贈与税には相続税のような非課税限度額がなく、上記3種類の中で税額がもっとも高額になりやすいので注意が必要です。

所得税が課税されるのは、受取人自身が保険料を負担していた場合です。この場合、生命保険金からすでに払い込んだ保険料の金額を差し引いた額が一時所得として課税されます。

また、契約者本人が自分に保険をかけて保険料を負担していた場合は、相続税の課税対象です。

税金の種類を間違えると後日申告をやり直す必要があるので、生命保険金の存在がわかったときは契約内容を必ず確認しましょう。

相続放棄しても死亡保険金は受け取れる?

相続放棄とは、相続財産や債務を一切引き継がずに放棄する行為です。相続放棄した場合の保険金の受け取り条件は以下のとおりです。

  • 相続放棄をした人も死亡保険金を受け取れる
  • 相続放棄した人も非課税限度額計算に含める
  • 相続放棄をすると非課税枠が使えない

後悔しないためにも、保険金の受け取り条件をきちんと確認しておきましょう。

相続放棄をした人も死亡保険金を受け取れる

相続放棄をしても、死亡保険金を受け取ることは可能です。なぜなら保険金は相続人の財産ではなく、保険会社から受け取るお金だからです。

相続放棄が影響するのは相続財産を引き継ぐ場合であり、受取人固有の財産である保険金には影響がありません。

ただし、受取人が被相続人本人の場合は保険金が相続対象になるため、相続放棄をすると保険金を受け取れなくなります。

相続放棄した人も非課税限度額計算に含める

非課税限度額の計算式は「500万円×法定相続人の数」ですが、この法定相続人の数には相続放棄した人も含まれます。

相続放棄した人を非課税限度額計算に含める理由は、納税者間の課税の公平を保つためです。相続放棄によって法定相続人の数が変わると、基礎控除額も変わり、結果的に相続人の意思で相続税額を変えることができてしまいます。

こうした恣意性を排除するために、相続放棄した人も法定相続人に含めて数えることにされています。

相続放棄をすると非課税枠が使えない

相続放棄をしても死亡保険金は受け取れますが、非課税枠の適用がありません。

死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」という非課税枠があり、相続放棄をしても法定相続人の数には含まれますが、非課税のメリットは受けられません。

したがって、受け取った全額が課税対象となります。納める相続税の金額が大きくなる可能性があるので注意が必要です。

相続手続きは専門家に相談しよう

生命保険金は被相続人の財産ではなく、受取人固有の財産として扱われるため、相続財産には含まれません。ただし、特別受益に該当する場合や、保険受取人が指定されていない場合などは、例外として相続財産に含まれるケースもあります。

生命保険はケースによって相続上の扱いが異なり、課される税金の種類も異なります。保険金に課せられる税金の計算方法や相続手続きについて困ったときは、専門家に相談してみましょう。

ほかにもこちらのメディアでは、兄弟姉妹は法定相続人になれるのか遺産相続手続きを司法書士に依頼する場合についても解説しています。ぜひこちらの記事もご確認ください。