相続登記が必要になった場合、どれくらい費用がかかるのか気になっていませんか?
亡くなった方の不動産を引き継いだ場合には相続登記が必要です。しかし、相続登記には税金や書類代など必要なコストが多いため、結局のところいくら費用がかかるのかわかりにくいものです。
この記事では、相続登記にかかる費用を解説します。相続のパターン別に必要な書類や費用を抑える方法などについてもご説明していますので、ぜひ参考にしてください。
- 相続登記には登録免許税や書類の手数料などに費用がかかる
- 不動産相続は相続登記以外にさまざまな税金が発生する
- 相続登記を司法書士に依頼すると報酬を支払う必要がある
相続登記とは不動産の名義を変更する手続き
相続登記とは、不動産を引き継いだときに持ち主の名義を変更する手続きのことです。不動産の持ち主が誰なのかは、法務局で管理されている登記簿に記録されています。
持ち主が亡くなったときに、引き継いだ方が手続きをしなければ、不動産の名義は以前の所有者のままです。そのため、土地を受け継いだ方は「相続による所有権登記」いわゆる「相続登記」を行わなければなりません。
相続登記を行う際は、相続登記申請書に申請内容を記載のうえ、必要書類を添付してその不動産を管轄する法務局へ提出します。
相続登記が必要な理由
相続登記の手続きをせず、不動産が以前の所有者のままになっていると、いざというときに土地や建物の所有権が主張できません。
その土地の売却や、アパートなどを建てて運用したり、不動産を担保にしてローンを組んだりさまざまな手続きが自由に進められなくなります。
さらに放置したまま期間が経ってしまうと、不動産の権利関係が複雑になってしまい、誰が相続人なのかを調べるのに一苦労です。相続の方法がなかなか決定できずに対処できなくなってしまいます。
国としても、相続登記を行わないことで土地の持ち主が誰だかわからない「所有者不明土地」の問題が深刻です。相続登記は個人としての問題だけでなく、相続人が責任をもって行わなければならない社会的な責任を伴うものです。
相続登記は2024年4月から義務化される
こうしたさまざまな背景を受け、相続登記は2024年4月1日から法律により義務化されることになりました。
相続や遺贈により不動産を譲り受けたときは「相続の開始および所有権を取得したことを知った日から3年以内」に名義を変更する責任が発生します。
正当な理由がなく、3年の期限を過ぎても然るべき手続きを行わなかった場合は、10万円以下の罰則が科せられます。法改正以前に譲り受けた不動産も同様に手続きが必要です。
これまでは、法的なルールが定められていなかったため、手間や費用のかかる手続きをしない方もいました。しかし、今後は必ず行わなければならないルールになります。
相続登記にかかる費用
法律で義務化されると、ますます重要になってくる相続登記の手続きですが、費用がどれくらいかかるのか気になるところです。
相続登記には、以下のような費用がかかります。
- 不動産を調査するための費用
- 必要書類の取得手数料
- 登録免許税にかかる費用
- 司法書士への報酬
- その他の費用
ここからは相続登記にかかる費用を解説します。それぞれの費用について確認しましょう。
1.不動産を調査するための費用
まずは不動産を調査するための費用が発生します。不動産を調査するための費用は以下のとおりです。
書類 | 1通あたりの料金 |
---|---|
固定資産評価証明書 | 300〜400円 (自治体によって異なる) |
登記事項証明書 | 【法務局の窓口・郵送】 600円の収入印紙 【オンライン】 窓口での受け取り:480円 郵送での受け取り:500円 |
名寄帳(なよせちょう) | 200円~400円 |
固定資産評価証明書は、不動産の評価額を確認する目的で必要です。評価額は納税通知書に添付している「課税明細書」でも確認できます。
登記事項証明書には不動産の地番や家屋番号が記載されており、権利関係を調べるために取得します。
名寄帳は、亡くなった方が所有していた不動産を一覧で確認することが可能です。故人が不動産を複数所有していた場合は、取得しておくとよいでしょう。
2.必要書類の取得手数料
登記申請書には、ケースごとにさまざまな書類を添付する必要があります。
基本的な書類と費用は以下のとおりです。
書類 | 1通あたりの料金 |
---|---|
戸籍謄本 | 450円 |
除籍謄本 | 750円 |
改製原戸籍謄本 | 750円 |
住民票 | 300円 |
住民票除票 | 300円 |
印鑑証明書 | 400円前後 |
相続のパターンによっては戸籍謄本を、亡くなられた方の出生から死亡までさかのぼって取得する必要があるため、枚数が多ければ費用がかさみます。
相続人の人数が多いケースでは戸籍や住民票などの取得費用も人数分必要です。
3.登録免許税にかかる費用
相続登記には登録免許税がかかります。登録免許税とは登記を申請するときに国に納める税金です。税金は、土地や建物の固定資産税評価額をもとに計算します。固定資産税評価額は、固定資産税課税明細書や固定資産税評価証明書で確認することが可能です。
計算した登録免許税の費用は、登記申請書に収入印紙を貼付して納めます。
法定相続人が不動産を相続する場合
法定相続人が不動産を引き継ぐ一般的な相続の場合、税率は0.4%です。
一般的な登録免許税の計算方法は以下のとおりです。
- 法定相続人が相続する場合の登録免許税=固定資産税評価額×0.4%
法定相続人以外が不動産を相続する場合
法定相続人以外が不動産を相続する場合を遺贈といいます。一般的な相続と税率が異なり、2.0%を乗じて計算します。
- 法定相続人以外が相続する場合の登録免許税=固定資産税評価額×2.0%
遺言書に法定相続人以外のものに遺贈する旨が記載されていた場合は、税率に注意して計算してください。
登録免許税が非課税になる場合
登録免許税は、一定の条件を満たした場合に非課税となります。
登録免許税が免除される条件は以下のとおりです。
- 相続登記をする前に相続人が亡くなった場合
- 相続する土地の評価額が100万円以下の場合
登録免許税の免除が適用されるのは、2025年3月31日までの期限があります。また、免除の適用を受けるには、管轄の法務局に申請書を提出する必要があります。
申請書の様式と記載例は、法務局の「相続登記の登録免許税の免税措置について」のページで取得可能です。
4.司法書士への報酬
司法書士に手続きを依頼する場合の報酬には規定がなく、相場は5〜15万円程度です。不動産の数・不動産の評価額・相続人の数などによっても異なります。
登記申請の手続きだけでなく、それに付随する相続人調査・財産の調査・遺産分割協議書作成なども依頼した場合は金額が加算されるケースが通常です。
5.その他の費用
そのほかに必要な費用としては、交通費や送料が挙げられます。必要な書類を取得したり提出したりするための交通費や郵便代金、ほかの相続人と遺産分割協議などの話し合いを行う際の交通費です。
引き継ぐ不動産が遠方にある場合や、話し合いを行いたいほかの相続人が遠方に住んでいる場合などでは、交通費がかさみます。また、書類の不備などで再提出が必要になれば、そのやり取りで何度か法務局へ出向く場合もあるでしょう。
最近では公的な書類も、マイナンバーカードを利用すればコンビニで取得できる自治体があります。書類の取得や提出も郵送が可能なので、うまく活用しながら手続きを進めましょう。
相続登記の費用は誰が負担する?
相続登記の費用負担者は法律で定められていないため、相続人同士の話し合いで決定します。
誰か特定の方が不動産を受け継ぐ場合は、その方が費用負担するのが一般的です。不動産を売却して代金を相続人で分けるときは、取得の割合に応じてそれぞれ費用負担する方法もあります。
相続しても売却できない不動産や活用できない不動産の場合は、固定資産税の負担が重くのしかかってしまい、相続した方が大変です。そのような場合は、負担が偏らないように、費用を出し合うケースも考えられます。
いずれにしても話し合いで決定しなければならないため、遺産分割協議では相続登記の費用負担についても話し合っておくべきです。
【パターン別】相続登記に必要な書類と費用
相続登記申請書に添付する書類は、相続の方法により異なります。
「遺産分割協議による相続」「法定相続分での相続」「遺言書による相続」それぞれに必要な書類と費用を確認しておきましょう。
遺産分割協議による相続
遺産分割協議とは、亡くなった方が遺した遺産をどうやって分配するかを話し合うことをいいます。
遺産分割協議による相続の場合、相続登記には以下の費用が必要です。
書類 | 1通あたりの料金 |
---|---|
戸籍謄本 (被相続人の出生から死亡まですべて) | 450円×必要枚数 除籍謄本・改製原戸籍謄本の場合:750円 |
被相続人の住民票除票 (もしくは戸籍の附票) | 300円 |
相続人全員の戸籍謄本 | 450円×人数分 |
不動産取得者の住民票 | 300円 |
相続する不動産の固定資産評価証明書 | 300〜400円 (自治体によって異なる) |
遺産分割協議書 | 0円 |
相続人全員の印鑑証明書 | 200円~300円(自治体によって異なる)×人数分 |
相続登記申請書 | 0円 |
遺産分割協議書には、協議内容に合意したことを証明するため相続人全員の印鑑証明書を添付します。
相続登記申請書と遺産分割協議書は、書式に決まりがなく費用もかかりませんが、司法書士に作成をサポートしてもらった場合は、別途報酬が必要です。
法定相続分での相続
法定相続分に沿って相続する際には以下の費用がかかります。
書類 | 1通あたりの料金 |
---|---|
戸籍謄本 (被相続人の出生から死亡まですべて) | 450円×必要枚数 除籍謄本・改製原戸籍謄本の場合:750円 |
被相続人の住民票除票 (もしくは戸籍の附票) | 300円 |
相続人全員の戸籍謄本 | 450円×人数分 |
不動産取得者の住民票 | 300円 |
相続する不動産の固定資産評価証明書 | 300〜400円 (自治体によって異なる) |
相続登記申請書 | 0円 |
法定相続どおりの相続の場合も、相続人が誰なのかを証明しなければならないため、被相続人の出生から死亡まですべての戸籍謄本を取得する費用がかかります。
これまでの戸籍をすべて収集し、戸籍を読み解きながら相続人が誰であるかを調査するのは大変で、知識がなければ難しい作業です。そのため相続人調査を専門家に頼むケースも多く、その場合は別途報酬が発生します。
遺言書による相続
遺言書に従って法定相続人が相続する場合、必要な費用は以下のとおりです。
書類 | 1通あたりの料金 |
---|---|
戸籍謄本 | 450円×必要枚数 除籍謄本・改製原戸籍謄本の場合:750円 |
被相続人の住民票除票 (もしくは戸籍の附票) | 300円 |
相続人全員の戸籍謄本 | 450円×人数分 |
不動産取得者の住民票 | 300円 |
相続する不動産の固定資産評価証明書 | 300〜400円 (自治体によって異なる) |
相続登記申請書 | 0円 |
遺言書 | (検認が必要な場合) 申立手数料:800円 検認済証明書:150円 |
遺言書の場合は、相続する方が遺言書で指定されているため、相続人が誰なのかを調査する必要がありません。そのため、亡くなったことが記載されている戸籍謄本だけ取得します。
また、遺言書の種類によっては検認が必要となり、その場合は別途費用がかかります。検認とは、家庭裁判所で遺言書の内容を確認してもらう手続きのことです。
「秘密証書遺言」や自宅などで保管されていた「自筆証書遺言」の場合は、検認の申立手数料と検認済証明書の手数料を支払います。公証役場に保管されていた遺言書の場合は費用が発生しません。
不動産相続は相続登記以外にも費用がかかる
不動産を引き継いだ場合は、不動産の相続登記が終わったあとにも、別途かかる費用があります。継続して支払う費用もあるので確認しておきましょう。
固定資産税
固定資産税は、土地や家を保有している場合にかかる税金です。不動産の所有者には毎年、固定資産税の納税通知書が届きます。
固定資産税の計算式は以下のとおりです。
- 固定資産税=固定資産税評価額×1.4%
固定資産税評価額は、固定資産評価基準にもとづいて市町村が3年毎に見直します。
なお、固定資産税は小規模な住宅用地に対して減税措置が適用されます。
これを「小規模住宅用地の特例」といい、減額は以下の割合です。
小規模住宅用地の200平方メートル以下の部分 | 課税標準の6分の1に軽減 |
---|---|
一般住宅用地の200平方メートルを超える部分 | 課税標準の3分の1に軽減 |
都市計画税
相続した土地が市街地の場合は、固定資産税に加えて都市計画税も課税されます。都市計画税が課税されるのは市街化区域です。すでに市街地を形成している区域と、市街化を計画している区域の家屋や土地に課税されます。
減額の割合は以下のとおりです。
小規模住宅用地の200平方メートル以下の部分 | 課税標準の3分の1に軽減 |
---|---|
一般住宅用地の200平方メートルを超える部分 | 課税標準の3分の2に軽減 |
相続税
相続した遺産額が一定の基準を超える場合は相続税がかかります。亡くなった方のすべての財産合計額から非課税のもの・債務・葬式などを差し引いた金額が相続税の課税対象です。
ただし、課税価格の合計額が「基礎控除」を超えなければ相続税はかかりません。
基礎控除の計算方法は以下のとおりです。
- 基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
上記で計算した金額を超える遺産を引き継いだ場合は、相続税を申告しなければならないので注意してください。
相続税の申告期限は「相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月目の日」と定められています。期限を過ぎると、税額軽減の特例が受けられなくなったり、ペナルティが科されたりするケースがあるため注意が必要です。
売却した場合は譲渡所得税
相続した土地を売却して利益が出た場合は譲渡所得税がかかります。
計算方法は以下のとおりです。
- 所得税=譲渡所得×譲渡所得税率
「譲渡所得」は土地や建物を売った利益の金額から「取得費」と「譲渡費用」を差し引いて計算します。
取得費とは不動産を買ったときにかかった費用、譲渡費用とは不動産を売るために直接かかった費用です。
「譲渡所得税率」は短期譲渡と長期譲渡によって異なります。
所有期間 | 譲渡税率 | |
---|---|---|
短期譲渡 | 5年以下 | 39.63% |
長期譲渡 | 5年以上 | 20.315% |
土地を売却して利益が出た場合には注意しましょう。
相続登記の費用を抑える方法
相続登記の費用を安く済ませる方法はあるのでしょうか?相続登記以外にもかかる費用があるため、負担を抑えたいところです。
とはいえ、税金や公的な書類の費用は安くはならないので、手続き自体を工夫する方法を考えましょう。
相続登記を自分で行う
相続登記をすべて自分で行うことが、費用を抑える方法で1番有効です。前述のとおり、相続登記の手続きを代行してもらうと、司法書士への報酬が5〜15万円程度かかります。ここを自分で行うことにより、トータルの費用はかなり軽減可能です。
しかし、難しい手続きや書類の作成があるため、多くの時間と手間がかかってしまいます。インターネットなどで調べながらミスがないように慎重に手続きを進めなければなりません。
また、引き継いだのが遠方の不動産の場合や、ミスがあって再提出のために法務局へ何度か出向かなければならない場合などでは、結局は費用がかさんでしまうこともあるでしょう。
すべて自分で行うのが不安な場合は、難しい手続きだけを専門家へ依頼して、一部の手続きのみ自分で行うことも可能です。少しでも節約したい方は、一部を引き取れば、その分費用を安くすませられます。
自分で行える作業は以下のようなものです。
- 戸籍収集
- 遺産分割協議書
- 相続関係説明図
- 登記申請書
ただし、一部の手続きとはいえ、相続する不動産が多い場合や相続人が多い場合などでは、調べたり書類を集めたりするだけでもかなりの労力を要します。
また、司法書士事務所の料金体系によっては、この方法が取れない場合もあります。
複数の司法書士事務所を比較する
司法書士への報酬は、各司法書士事務所によって異なるため、複数の事務所を比較検討しましょう。
費用は、事務所により数万円ほどの差がつくケースもあります。複数の事務所で見積もりを取ることをおすすめします。
相続登記は複雑な手続きのため、トータルでサポートしてくれる専門家がいると安心です。信頼できる司法書を選択し、スムーズに手続きができるようにしましょう。
おすすめの記事
ほかにもこちらのメディアでは、相続登記の必要書類についてや相続登記の義務化についても解説しています。ぜひこちらの記事もご確認ください。