遺産分割協議書は相続人全員で作成するのが一般的ですが、公証人に相談して公正証書として作成することもできます。公正証書は公文書であり、私文書に比べて証拠力が高いのが特徴です。
公正証書で作成することは稀ですが、トラブルが予想されるときは公正証書で作成した方が良い場合もあります。
この記事では、遺産分割協議書を公正証書で作成するメリットや作成にかかる費用について解説します。相続人間のトラブルを防ぎたい方は必読です。
- 遺産分割協議公正証書とは、相続人間のトラブルを防止できる公文書
- 代償分割をする場合は公正証書があると安心
- 公正証書の作成にかかる費用は5,000円から
遺産分割協議書公正証書とは?
遺産分割協議書は、通常相続人だけで作成するため私文書の扱いですが、公正証書は法律の実務に精通した公証人が作成するため、遺産分割協議公正証書という公文書扱いになります。
【私文書と公文書の違い】
私文書:公的な立場にない一般の私人が作成した書類で、権利や義務、事実証明に関する文書または図画のこと。
公文書:政府や官庁、地方公共団体の公務員等が職務上作成した文書のこと。
協議書を作成する際、必ずしも公正証書にする必要はありません。実際、協議書を公正証書で作成するケースは稀です。しかし、私文書で作成した内容や、ちゃんと効力が発生するか不安がある場合は、公証役場で公正証書にした方が良いでしょう。
公正証書は公証人が作成するため、書き方の不備などもなく、裁判に提出した場合でも高い証拠力を持ちます。
私文書と比べると後から遺産分割協議書の有無や内容の無効などを主張されにくいため、相続トラブルを防ぎたい人には最適です。
遺産分割協議書を公正証書にするメリット
遺産分割協議書を公正証書にすることには、主に以下3つのメリットがあります。
- 将来的なトラブルを回避しやすい
- 紛失する心配がない
- 代償分割した場合に代償金を回収しやすい
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
将来的なトラブルを回避しやすい
協議書を公正証書にすることで、将来的なトラブル防止に役立ちます。公正証書は、公証人が相続人の本人確認や意思確認を行った上で作成するので、後日争いが起こる可能性は低くなります。
相続人が親しい間柄でない場合、協議が終わった後に内容に納得していなかったり、よくわかっていなかったなど主張をされたりする場合があります。そのような場合も、公正証書が強い証拠となって主張の食い違いによるトラブルを防げます。
公証人が作成した文書は、いかなる個人や団体に対しても内容の存在を証明することが可能です。
他の相続人が信用ならない場合や、協議が揉めて今後も蒸し返される可能性がある場合には、保険をかける意味で公正証書を作成した方が良いでしょう。
紛失する心配がない
協議書を公正証書にした場合、書類の原本は公証役場に20年間保管されます。
公証役場で厳重に保管されるため、紛失や改ざんの心配がありません。自分が協議書を紛失しても、原本が公証役場に保管されているので安心です。
保存された協議書は全国どの公証役場でも検索でき、必要時に写しを発行してもらえます。相続人の人数分の書類を作成する必要もなく、手間を省けます。
代償分割した場合に代償金を回収しやすい
代償分割で支払われるべき代償金が払われなかった場合に、公正証書があればすぐに強制執行ができます。
代償分割とは、特定の相続人が不動産などの遺産を現物で相続する代わりに、他の相続人に金銭など(代償金)を支払って遺産相続が公平になるように調整する方法です。
代償分割は分割しにくい遺産を公平に分けられるメリットがある一方で、不動産を相続した人が代償金を支払わずにトラブルになるデメリットがあります。
このようなトラブルに備えて、執行力のある公正証書を作成しておくと安心です。
公正証書を作成するときに「代償金を支払わない場合は、直ちに強制執行に服する」という内容の文言を記載しておけば、裁判をせずに強制執行で代償金を回収できます。
代償金は高額になるケースが多いため、後になって相続人が支払わないなどの事態が想定されます。公正証書でない協議書ではすぐに強制執行ができないので、公正証書として作成するのが安全です。
遺産分割協議公正証書を作成した方が良いケース
公正証書にしたほうが良いケースは、主に3つあります。
- 相続人間のトラブルが予想される場合
- 代償分割で遺産を分割する場合
- 遺産分割協議をスムーズに行いたい場合
上記の場合には、公正証書を作成するメリットが大きいと言えるでしょう。
相続人間のトラブルが予想される場合
遺産分割協議を終えたあとにトラブルが想定される場合は、公正証書を作成しておくと安心です。相続人間のトラブルが予想されるのは、具体的に以下のようなケースです。
- 相続人同士の仲が悪い
- 他の相続人と疎遠である
- 包括受遺者など親族でない人がいる
- 財産の種類が多くて複雑である
上記のような事情がある場合、遺産分割協議で合意した内容を後になって覆そうとする相続人が出てくる可能性があります。そのような場合に公正証書が強い証拠となり、トラブルを未然に防げます。
他の相続人が信用できない、後になって何か問題になりそうまたは問題を起こしそうな方がいる場合は、公正証書の作成を検討した方が良いでしょう。
代償分割で遺産を分割する場合
代償分割では代償金の未払いが起こる可能性があるため、強制執行受諾文言を記載した公正証書を作成しておくことで未払金を回収できやすくします。
遺産となる不動産の値段が高い場合、他の相続人に代償金を用意することが難しい場合があります。万が一代償金が支払われなかった場合、通常裁判所に紛争調整調停を申し立てるか、裁判をしなければなりません。
裁判でもだめな場合は、強制執行(財産の差し押さえ)という流れになります。
これらの手続きは弁護士にしか代行できないため、費用が高額になりやすく時間もかかりがちです。
公正証書に強制執行受諾文言を記載しておけば、代償金が支払われなかった時に、裁判をしなくてもすぐに強制執行に踏み切れます。代償金を支払ってもらう人にとっては、公正証書が大変心強い存在になるでしょう。
代償金以外にも後日金銭の支払が生じる場合は、不履行時に強制執行ができる公正証書を作成しておくことをおすすめします。
遺産分割協議をスムーズに行いたい場合
公正証書で作成することにより、協議に参加してもらいやすいや不満などが出ずらい場合もあり、スムーズに協議書の作成ができる可能性があります。遺産分割協議書は、以下の手続きをする際に提出が求められます。
- 不動産の名義変更・所有権移転登記
- 預貯金の名義変更
- 相続税の申告
協議書がないと上記の手続きを進められません。いざ手続きをしようとすると、協議書の内容を変更したいと主張する相続人が出てくる可能性もあります。
そのような場合に備えて公正証書を作成しておけば、知らなかった、わからなかったなどの主張が少なることでその後の相続手続きをスムーズに進められるかもしれません。
遺産分割協議書を公正証書にする流れ
遺産分割協議の内容を公正証書にするときは、以下4つのステップを踏むことが一般的です。
- 相続人を調査する
- 財産調査をする
- 遺産分割協議を行う
- 公証役場で公正証書を作成する
いずれも大事な作業なので、早めに準備を進めていきましょう。
1.相続人を調査する
遺産分割協議をする前に、相続人調査を行い、法定相続人は誰であるかを明確にする必要があります。被相続人(故人)の出生から死亡までの全ての戸籍謄本を市区町村役場から取り寄せて、そこから法定相続人を調べます。
相続人調査をしないと、全ての相続人がわからず、遺産分割が有効に行えません。必ず相続人調査をしておきましょう。
2.財産調査をする
財産調査では、故人(被相続人)の全財産を調べる必要があります。
銀行口座はもちろん、不動産や有価証券、他人と貸し借りしているお金まで、財産と思われるものはすべて調べておきましょう。
3.遺産分割協議を行う
必要な調査を終えたら、遺産分割協議を行います。相続人全員で財産の分け方を話し合いますが、一堂に会する必要はありません。
最終的に相続人全員が合意できれば良いので、一部の相続人で合意した後に残りの相続人が合意したり、電話やメールで話し合いをしても差し支えありません。
協議が成立すれば遺産分割協議書を作成して、全員で署名・押印をします。
4.公証役場で公正証書を作成する
公証役場に予約をして、公正証書にする手続きをとります。
遺産分割協議で決まった相続方法を公証人に伝えて、公証人の指示に従って必要書類を集めましょう。必要書類を揃えたら、公正証書を作成してもらいます。
遺産分割協議公正証書に定める内容
公正証書に定める内容は、主に遺産の分割に関する事項と分割の方法に関する事項です。
遺産の分割に関する事項 | ・不動産に関する事項 ・預貯金に関する事項 ・株式・国債・社債その他の有価証券に関する事項 ・自動車その他の財産に関する事項 |
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分割の方法に関する事項 | ・現物分割・代償分割など負債に関する事項 ・相続分の放棄に関する事項 ・後日、新たな財産が発見された場合に関する事項 |
新たに遺産が発見された場合も考慮して、誰がその遺産を取得するかを明記しておくと安心です。
ただし、新たに見つかった遺産が高額だった場合は、遺産分割協議をやり直した方が良いでしょう。
遺産分割協議公正証書の作成に必要な書類
公正証書を作成するときは、公証人から以下のような必要書類を求められます。
被相続人に関する資料 | ・戸籍謄本 ・改正原戸籍 ・除籍謄本 |
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相続人に関する資料 | ・戸籍謄本 ・印鑑登録証明書 ・実印 |
遺産に関する資料 | ・不動産登記簿謄本・固定資産税評価証明書 ・預貯金の通帳または残高証明書 ・生命保険・有価証券の証券借入先の残高証明書 ・車検証と査定書、など |
ケースによっては、さらに追加で書類の提出を要求される場合もあります。必要書類は多岐にわたるので、手間を省きたい場合は司法書士や弁護士、行政書士などの専門家に依頼しましょう。
遺産分割協議公正証書の作成にかかる費用
公正証書を作成する際に、費用として公証人手数料がかかります。公証人手数料は遺産の価格によって異なるので注意が必要です。
遺産の価格 | 公証人手数料 |
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100万円以下 | 5,000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11,000円 |
500万円を超え1,000万円以下 | 17,000円 |
1,000万円を超え3,000万円以下 | 23,000円 |
3,000万円を超え5,000万円以下 | 29,000円 |
5,000万円を超え1億円以下 | 43,000円 |
公正証書にするまでに打ち合わせが必要になるので、手数料の額を確認しておくといいでしょう。
まとめ
遺産分割協議書公正証書は、公証人が関与して作成する証拠力の高い公文書です。公正証書を作成することで将来起こりうるトラブルを防止できる可能性を高め、代償金を回収しやすいメリットがあります。
必ずしも公正証書を作成する必要はありませんが、代償分割する場合や相続人同士の仲が悪いなど不安がある場合は、公証人や専門家に相談した方がよいでしょう。
公正証書の作成を検討している方は、この記事を参考に手続きを進めてみてください。
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