「遺産分割でもめてしまい、遺産分割調停でもまとまりそうにない」「話し合いでは解決できそうにないため、ほかの方法が知りたい」など、遺産分割がうまく進まずお困りではありませんか?
遺産分割調停でも解決しなかった場合の手続きに「遺産分割審判」というものがあります。審判は当事者同士の話し合いではなく、家庭裁判所の審判官(裁判官)が遺産分割方法を決める手続きです。
この記事では、遺産分割審判の手続きの流れや調停との違いについて解説します。審判を有利に進める方法や注意点もご紹介しているため、ぜひ最後までご覧ください。
- 遺産分割審判とは、話し合いではなく家庭裁判所の審判官(裁判官)が遺産分割方法を決める手続き
- 審判のみの申立ても可能だが、通常は調停から移行する
- 審判を有利に進めるには、できるだけ早く弁護士に依頼することが必要
遺産分割審判とは
遺産分割審判とは、家庭裁判所の審判官(裁判官)が遺産分割方法を決定する手続きです。話し合いで分割方法を決められなかったときに行われるため、遺産分割協議や遺産分割調停のように話し合いで解決を目指すものではありません。
審判官はこれまでに行われた話し合いの内容や各相続人の主張、提出された資料などをもとに審判を下します。審判には強制力があるため従わなければなりませんが、不服がある場合は審判を受けた日の翌日から2週間以内であれば不服申立てが可能です。
期限までに不服申立てを行わなかったケースや申立ての内容が認められなかったときは審判が確定し、結果は覆せなくなります。
調停との違い
遺産分割審判と似た制度に「遺産分割調停」というものがあります。審判と調停にはどのような違いがあるのでしょうか?ここでは、審判と調停の違いについて解説します。
話し合いによる解決か一方的な決定か
遺産分割調停はあくまでも話し合いで解決を目指すものです。それに対し、遺産分割審判は家庭裁判所が一方的に遺産分割方法を決定するものであるという大きな違いがあります。
また、調停の成立には相続人全員の合意が必要ですが、審判はこれまでの話し合いやそれぞれの主張をもとに判断されるため、納得していない相続人がいたとしても考慮されません。
中には、意外な結末を迎えるケースもあります。誰にとっても最良といえる結果にならない可能性がありますが、終わりの見えない話し合いを続けるよりは強制的に終わらせてもらったほうがよいケースもあるでしょう。
調停委員が関与するかどうか
調停委員が関与するかしないか、といった違いもあります。遺産分割調停では、審判官(裁判官)1名と調停委員2名で構成される調停委員会が当事者の間に入って話し合いが行われます。
しかし、審判は話し合いとは異なるため調停委員は関与せず、審判官が1人で担当するのが一般的です。
当事者全員の出席が必要かどうか
当事者全員の出席が必要かどうかも異なる点です。遺産分割調停は相続人全員が合意しなければ成立しないため、相続人全員の出席が求められます。
しかし、遺産分割審判では当事者のうち一方が出席すればよく、基本的に相続人全員の出席は必要ありません。
また、調停では1人1人が調停委員を通して話し合いを行うため、当事者同士は顔を合わせずに済みます。
それに対し、審判ではほかの相続人の主張に対して反論できるよう、審判官(裁判官)のいる部屋に当事者が集まって行われます。不仲な相手がいたとしても、顔を合わせる必要があるのです。
審判確定後にできること
審判確定後、当事者はその内容に従わなければなりません。審判で確定した内容には強制力が生じるためです。審判の内容に従わない相続人がいる場合、ケースによっては以下の手続きが可能です。
- 強制執行
- 不動産の名義変更
たとえば審判によって支払いを命じられた相続人が支払いをしない場合、「強制執行」によって債権の回収が行えます。強制執行とは、相手方が約束を守らないときに、強制的に財産を回収するなどして債務を実行させる制度のことです。
ただし、強制執行には家庭裁判所への申立てが必要です。相手方が支払いを怠っているという事実があっても、自動的に強制執行が行われるわけではありません。
そのほか、審判書で不動産の名義変更が命じられたときは、審判書の内容どおりに所有権移転登記(相続登記)が可能です。名義変更に納得していない相続人がいたとしても、同意を得る必要はありません。
遺産分割調停から審判が下るまでの流れ
遺産分割審判は、通常遺産分割調停を経て行われます。調停から審判が下るまでの流れは以下のとおりです。
- 遺産分割調停が不成立になる
- 第1回の期日が指定される
- 指定の期日に出席する
- 審判が下される
- 審判結果が不服なら即時抗告を申立てる
流れに沿って解説します。
1.遺産分割調停が不成立になる
遺産分割調停が不成立になると、手続きは自動的に遺産分割審判へと移行します。調停を飛ばして審判だけを行うことも可能ですが、調停から審判へと進むのが一般的な流れです。
仮に審判を申立てたとしても、家庭裁判所の判断で調停に回される可能性が高いです。
調停から審判に移行したときは、あらためて申立てを行う必要がありません。ただし、審判だけを行うなら別途審判の申立てをしなければならないため注意しましょう。
なお、ほかの相続人が合意している中、たった1人調停に参加しなかったために調停が成立しなかった場合、家庭裁判所はほかの相続人が合意した内容にもとづいて審判できます。
これを「調停に代わる審判」といい、2週間以内に誰も不服を申立てなければそのまま審判が確定します。
2.第1回の期日が指定される
遺産分割調停から遺産分割審判に移行すると、第1回の審判期日が指定されます。「第1回」という単語からわかるように、通常1回だけでは終わりません。
第1回の審判期日が終了したあとは1カ月〜1カ月半程度時間を空け、第2回の審判期日が開催されます。期日の回数や日数に制限はないため、決着するまで3回、4回と回数を重ねていきます。
3.指定の期日に出席する
指定された日時に家庭裁判所まで出向き、審判期日に出席します。
審判は、審判官(裁判官)のもとに当事者を集めて行われますが、遺産分割調停のように話し合いをするわけではありません。主張を書面にしたものや証拠をそれぞれが提出し、資料についての説明や意見を述べます。
話し合いで解決できる可能性があるときなど、ケースによっては審判官から解決案や和解案が示されることもあります。和解できた場合は審判ではなく調停が成立し、「調停調書」が交付されれば終了です。
第1回の期日終了後、第2回、第3回と期日が設定されたらそのたびに出席し、繰り返し審判を行います。
4.審判が下される
何度か審判期日を経ても合意に至らなければ、審判官(裁判官)から審判が下されます。
「審判が下される」とはいっても、審判は口頭で言い渡されるのではなく、審判の結果を記した「審判書」が自宅に郵送で届きます。そのため、審判の結果を聞くために家庭裁判所に出向く必要はありません。
審判書が送られてくるタイミングは、最後の審判期日が終わってから1〜2カ月後です。
審判書を受け取ったら内容をよく確認し、どのような方法で分割しなければならないかを把握しましょう。審判後は審判書の内容を実行しなければならず、「よく読んでいないため内容がわからない」ということにならないようにする必要があります。
また、審判書を受け取ったときから「即時抗告」の期間が進行し始めるため、内容は早めに確認したほうがよいでしょう。即時抗告については次の見出しで解説します。
5.審判結果が不服なら即時抗告を申立てる
審判結果に不服があるときは、「即時抗告」という手続きによって上級審に不服を申立てることで再度審理をしてもらえます。
即時抗告とは、審判の結果に対して不服を申立てる方式のことです。ただし注意が必要なのは、もう一度審理をしてもらったからといって必ずしも決定が覆るとはかぎらず、希望どおりにいかない可能性がある点です。
なお、即時抗告は「審判書を受け取った日の翌日から2週間以内」にする必要があります。期限を過ぎると審判結果が確定してしまうため、納得いかない結果であっても受け入れざるを得なくなります。
遺産分割審判を有利に進める方法
遺産分割審判を有利に進めるには、遺産分割審判手続きに精通している弁護士にできるだけ早く依頼することが重要です。弁護士に依頼した場合は当然費用がかかりますが、申立書の作成や証拠書類の収集など、素人には難しい作業をすべて任せられます。
とくに審判では書面審理が基本です。主張の裏づけや法的な根拠を証明できる資料を用意できなければ、どのように主張しても通りません。手続きに慣れている方でないかぎり、万全といえる体制で臨むことは難しいでしょう。
もっとも避けたいのは、相手方に弁護士がついているのにこちらにはついていないという状況です。
専門家がついているのといないのとでは、天と地ほど違います。審判を有利に進めるどころか不利になってしまうため、ご自身だけでなんとかしようとせず専門家を頼りましょう。
審判では、調停での主張も審理の対象となります。そのため、できれば調停の段階で弁護士に相談しておくことをおすすめします。
審判の途中で弁護士に依頼した結果、これまでの主張がご自身にとって不利になるとわかっても主張の変更は困難です。主張に矛盾が生じてしまい、心象が悪くなるためです。そういった事情からも、早めに弁護士に依頼することが重要だといえるでしょう。
遺産分割審判に関する注意点
遺産分割審判をするにあたって、どのようなことに注意しなければならないのでしょうか?ここでは、審判に関する注意点をご紹介します。
長期におよぶことがある
遺産分割審判は、長期におよぶ可能性があります。ケースにもよりますが、審判開始から審判の確定までで3〜8カ月程度かかることを念頭に置いておきましょう。
審判まで来てしまったということは、遺産分割でもめた結果、ほかに解決策が見つからず審判に行きついたケースである可能性が高いです。そのため、審判が開始した時点ですでにかなりの時間がかかっていると考えられます。
中には、相続開始から3〜5年かかってしまった例もあります。長期戦を覚悟しておく必要があるでしょう。
審判を欠席すると勝手に審理が進んでしまう
遺産分割審判は審判期日に出席しなくても問題ありませんが、審判を欠席すると知らないうちに審理が進んでしまうため要注意です。その結果、相手方の主張に対して反論する機会を失い、言い分を聞いてもらうことなく審判が下されてしまうおそれがあります。
相手の顔を見たくないと思うほどこじれているようなケースでも、通したい主張があるなら気持ちに折り合いをつけて出席する努力が必要でしょう。
審判に従わない場合強制執行が行われる
審判に従わないと、強制執行が行われる場合があります。確定した審判結果には強制力があり、当事者はたとえ内容に納得できなかったとしても従う義務があるためです。
たとえば、金銭の支払いを命じられたにもかかわらず支払わずにいると、強制執行が行われ、預貯金を差し押さえられる可能性があります。審判結果に納得がいかないのであれば、不服申立てを検討するしかないでしょう。
不服申立ての期限は、審判書が届いた日の翌日から2週間以内です。申立てを行ったからといって必ずしも結果が覆るとはかぎりませんが、この機会を逃してしまうと審判の結果が確定し、従うしかなくなります。
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