遺言書は開封しても問題ないの?正しい対処法と注意点を解説

親が亡くなった後遺言書が見つかり、開封してもよいのか悩む方もいるのではないでしょうか。

親の遺言書が出てきたら、すぐ開けて中身を確認したいと思うのは人情ですよね。

しかし遺言書を勝手に開封すると、法律違反に問われ5万円以下の過料を科せられ、改ざんすると相続人の地位を失うこともあり得ます。

そこで、この記事では遺言書をなぜ勝手に開封してはいけないのか開封してもよい場合・検認の流れ・開封されないための方法などについて解説します。

1分でわかる!記事の内容
  • 自筆証書遺言、秘密証書遺言は裁判所の検認が必要
  • 公正証書遺言は開封しても問題がない
  • 家庭裁判所による検認の流れ

この記事の監修者

カワムラ行政書士事務所


代表


河村修一行政書士・ファイナンシャルプランナー

母親の介護をきっかけに、介護する立場から介護とお金に関してひたすら追求。「介護者専門ファイナンシャル・プランナー」として、数々のアドバイスを行う。また、2018年にカワムラ行政書士事務所を開業、「介護費用・介護問題での親族間の合意書作成サポートから遺言サポート、相続手続き、のこされた家族のマネープラン」までワンストップサービスを展開中。またFP3級・2級試験の解答解説執筆中。法人向けには、セミナー講師の他に創業融資や銀行融資サポートを行う。

遺言書が見つかっても開封しない

遺言書を発見したら、誰でも早く開けて中身を見たいと思うでしょう。しかし、遺言書は勝手に開封してはいけません。

遺言書を見つけたら、正しい手続きを経て開封する必要があります。

開封手続きを踏むことにより、遺言者の意思を明確にし、遺産の分配を適切に行うことが可能になります。

遺言書の開封は家庭裁判所の検認が必要

検認とは、遺言書を家庭裁判所で開封・確認することを言います。

公正証書で作られた遺言書を除いて、遺言書を開封するには検認が必要です。検認が必要な理由は、遺言書の内容を家庭裁判所で明らかにして、偽造や破棄を防ぐことにあります。

たとえば遺言書を見つけ、書かれている内容が発見した相続人に不利な場合には、隠蔽や書き換えを行ってしまうことがあるかもしれません。

書き換えや隠ぺいをふせぎ、遺言者の意思が確実に実行されるために検認が必要となります。

遺言書を勝手に開封することは法律違反

民法1004条3項で、「封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ開封できない」としています。

不利な立場にある相続人は、勝手に遺言書を開封し、すり替えや改ざん・破棄を行うかもしれません。そのため、勝手に遺言書を開けて相続人間でトラブルの発生を防ぐために、遺言書開封の禁止が規定されています。

また民法1005条では、「遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する」としています。

したがって、勝手に遺言書を開封すると法律違反に問われ過料を受ける恐れがあるため、検認の手続きを踏まなければなりません。

遺言書を開封しても効力はある

封印された遺言書をうっかり開いても、遺言書そのものは無効にはなりません。

しかし、開封すると他の相続人からは遺言書を差し替えたのではないかと疑いを掛けられることもあるかもしれません。また、開封が原因で相続人間でトラブルが発生すると、相続手続きが前に進まない可能性もあります。

遺言書の取り扱いについては細心の注意を払い、故人の最後の遺志がスムーズに達成できるようにしましょう。

封のない遺言書も検認は必要

封をしているかどうかは遺言書の有効要件には含まれていません。そのため、封をしてなくてもほかの要件を満たしていれば効力はあります。

しかし封をしていない遺言書も、家庭裁判所の検認を受ける必要があります。遺言書を見つけた人は、相続開始を知った後、なるべく早く家庭裁判所に検認を請求しましょう。

検認手続きを怠ると、相続手続きする際の提出書類として認められないこともあるため注意しなければなりません。

相続人立会いのもとで開封を行う

遺言書は、相続人が立ち会って家庭裁判所で開封します。

検認の申立人は、遺言書の検認には必ず立ち会わなければなりませんが、出席できない相続人は欠席しても構いません

検認は遺言書の有効性を判断するものではなく、遺言書の存在を確認し、偽造や変造・隠蔽などを防ぐための手続きです。そのため相続人に対して、遺言の内容や形状・枚数・訂正した箇所の有無・日付・署名などを明確にします。

検認が終わると、「検認済証明書」が家庭裁判所から発行されるので、相続手続きを始められます。

検認を行うことで、不動産の名義変更登記や金融機関での解約払戻金の手続きが可能になります。

遺言書を隠したり変造すると相続人の権利を喪失する

遺言書を開封し偽造や変造・破棄・隠匿した場合には、相続人の欠格事由にあたり相続人の権利を失うこともあります。

相続人の欠格事由は次のような場合です。

相続人の欠格事由
  • 遺言書の偽造…遺言書の作成権限のない人が故人の名前を使い勝手に作成すること
  • 遺言書の変造…すでにできている遺言書について手を加えて変更すること
  • 遺言書の破棄…遺言書の破棄や燃やすなどして遺言書を無効にすること
  • 遺言書の隠匿…遺言書を見つけられないように隠してしまうこと

なお、相続に関して不当な利益を得ることが目的ではない場合は、相続欠格事由に該当しないとする判例もあります。

遺言書の種類

遺言書の種類は3つあります。自筆証書遺言と公正証書遺言・秘密証書遺言です。

3種類の遺言書について、検認の必要性について説明しましょう。

自筆証書遺言

自筆証書遺言は、遺言者が自分で作成し自分で保管する遺言書ですが、検認が必要です。

遺言書を見つけた相続人は、遺言者の死亡を知ったら直ちに遺言書を家庭裁判所に提出し、検認を請求しなければなりません。

家庭裁判所は遺言の存在を各相続人に知らせ、これにより偽造や変造・隠蔽・破棄を防ぐことができます。

なお「自筆証書遺言書保管制度」を利用すれば、家庭裁判所の検認は要りません。

自筆証書遺言保管制度は2020年から始まった制度で、自筆証書遺言を法務局に預けて画像データ化して保管します。これにより自筆証書遺言のデメリットを軽減し、円滑に相続手続きを進められます。

法務局が遺言者の死亡を確認すると、前もって指定した相続人に遺言書の存在を通知してくれます。

公正証書遺言

公正証書遺言は、公証人が関与して公正証書という方法で作る遺言書で、検認は不要です。

遺言する人は、2名の証人の立会いの下で遺言の内容を口頭で公証人に伝え、公証人は遺言をそのまま筆記するため、偽造や変造の心配がありません。

公証役場では封をせずに遺言書の正本と謄本がを渡されます。原本は、公証役場で保管されており偽造や変造のおそれがないため、家庭裁判所の検認は不要です。また封のされた公正証書遺言を、相続人が開封しても特段問題はありません。

しかし、相続人間のトラブルを避けるため、ほかの相続人に立ち会ってもらい開封したほうがよいでしょう。

秘密証書遺言

秘密証書遺言は、遺言書の存在だけを公証人役場で証明してもらい、内容は秘密にしておく方法です。

自分で作成した遺言書を封印した状態で公証人役場に持参するため、内容を知られることはありません。

秘密証書遺言は偽造や改ざんの恐れはありませんが、遺言書の要件を満たしていないことも往々にしてあります。そのため、家庭裁判所で検認してもらう必要があります。

検認手続きの流れ

自筆証書遺言書や秘密証書遺言が見つかったときは、家庭裁判所の検認が必要です。

家庭裁判所による検認の流れや必要書類などについて説明します。

検認申立を裁判所に行う流れ

遺言書が見つかってから、検認が終了するまでは次のような段階を踏む必要があります。

STEP1.申し立てに必要書類を集める

標準的な添付書類は次の通りです。

  • 申立書
  • 遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 遺言者の子(及びその代襲者)で死亡している人がいる場合は,その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本

他の必要な書類については裁判所のホームページを確認してください。

なお、検認申立には800円の収入印紙と連絡用の郵便切手を用意する必要があります。

STEP2.家庭裁判所へ検認を申立てる

該当の裁判所に直接持参するか、郵送でも申請が可能です。

書類の不備があると却下されるため、あらかじめ裁判所に確認しておきましょう。

STEP3.検認期日について連絡が届く

申立をしてから1カ月程度ほどで検認日についての通知があります。

STEP4.検認に出席する

遺言書や本人確認書類・印鑑などの必要書類について、連絡がありますのでチェックして持参しましょう。

検認は裁判所の職員が立ち会って遺言書を開封します。遺言書の日付や筆跡・署名・本文を確認しますが、所要時間はおおむね15分程度です。

STEP5.検認済証明書の申請と遺言書の返還

検認が終了したら、「検認済証明書」を申請します。これにより金融機関での預貯金払い戻しなどの手続きも可能になります。当日欠席した相続人には、検認済の通知が送られます。

検認済証明書は遺言書の存在を証明するもので、遺言書の有効性を証明するものではありません。

検認申立が受理された後の流れ

検認が終了した後は、相続手続きに移行できます。遺言書に記載されたとおりに、不動産の相続登記や財産の分配を行います。

なお遺言書に記述のない遺産がある場合には、相続人で遺産分割協議を行い、財産の分配について話し合いを行う必要があります。

遺言書を開封されないためには

自筆証書遺言は封をすることは要件にないため、封をしていなくても遺言の効力が無効になることはありません。

しかし、開封されると偽造や変造の恐れがあるため、開封されないようにすることは大事なことです。

公正証書遺言にする

公正証書遺言にすれば、手元にある正本や謄本が開封されても、原本が公証役場で適切に保管されるので、偽造や変造・紛失などのリスクははありません。また、自筆証書遺言でも自筆証書遺言書保管制度を利用すると、法務局で保管されるため開封される心配はありません。

遺言書に入れる封筒を二重にする

自筆証書遺言あるいは秘密証書遺言で作成の場合は、二重封筒にするとよいでしょう。

封筒があることを遺族が確認しても、遺言書とわからなければうっかり開封や廃棄される恐れがあります。

そこで外側の封筒に、「裁判所の検認が済むまでは開封しないこと」と記載しておけば、うっかり開封してしまうことを防げるでしょう。

まとめ

遺言書は開封しても、効力がなくなることはありません。

しかし遺言書を勝手に開封すると、法律違反となり過料に処されることもあります。また、遺言書を開封し偽造や変造・隠蔽をすると、最悪の場合は相続人の地位を失うことになりかねません。

相続人間のトラブルを防ぎ開封のリスクを防止するためには、以下の手立てを考える必要があります。

  • 公正証書遺言にする
  • 自筆証書遺言書保管制度を利用する
  • 二重封筒にするなど

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