配偶者が受け取れる遺族年金ですが、どのような要件でどのくらいの金額をもらえるのかわからない方も多いでしょう。
遺族年金は遺族基礎年金・遺族厚生年金の2つに分かれており、それぞれ受け取るための要件や期間が異なります。
この記事では配偶者が受け取れる遺族年金について、わかりやすく解説します。
- 遺族年金とは配偶者を含めた遺族の生活を保障するための制度
- 遺族基礎年金の受給対象者は子どもがいる配偶者と、その子ども
- 遺族厚生年金の受給対象者は子どもがいない配偶者
配偶者や子の生活を保障する「遺族年金」
遺族年金とは、生計を維持していた方が何らかの理由で亡くなった場合に、残された遺族が利用できる制度です。その大きな目的として、配偶者を含めた遺族の生活費用を保障して、生活の安定を図ることが挙げられます。
受給要件は以下のとおりです。
- 亡くなった方が国民年金、または厚生年金の被保険者である(被保険者であった)
- 亡くなった方に生計を維持されていた
遺族年金には、遺族基礎年金と遺族厚生年金の2種類があります。
例えば、「会社員の夫」が亡くなった場合、配偶者や子どもは両方を受け取れる可能性があります。ご家庭の状況によって、受給できる年金の種類が異なるため、両者の違いを身につけておくことが大切です。
遺族年金は2階建て構造
2階建てとは、日本の公的年金制度の仕組みを指しています。1階部分を「国民年金」が担い、2階部分を「厚生年金」が担うことで、加入者の生活を保障しているのです。
両者の基本的な違いを押さえておくと、亡くなった方の年金加入状況を調べる際に役立ちます。基本的な違いを表で確認しておきましょう。
国民年金(1階部分) | 厚生年金(2階部分) | |
---|---|---|
加入者 | 自営業、学生、専業主婦(夫)など | 会社員、公務員など |
加入要件 | 20歳以上60歳未満の男女 | 法人の事業所などに所属する |
受給額 | 定額 | 所得と加入期間により変動 |
保険料 | 自己負担(免除や納付猶予制度あり) | 厚生年金保険料に国民年金保険料が含まれる |
配偶者や子が受給できる「遺族基礎年金」
「国民年金の被保険者または被保険者であった方」が亡くなった場合に、生計を維持されていた遺族が利用できる制度が遺族基礎年金です。
受給要件と受給期間
受給要件は大きく4つ存在します。以下の項目のいずれかにあてはまっていれば受給できます。
まずは「国民年金の被保険者である間に亡くなった場合」です。家計を維持していた夫や妻が、国民年金の被保険者である間に亡くなった場合、残された配偶者に受給権があたえられます。
2つ目の要件は、「国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の方で、日本に居住地を構える方が亡くなった場合」です。1つ目の要件に該当しない方でも、こちらの要件に該当していれば受給できます。
3つ目の受給要件は、「老齢基礎年金の受給権を持ち保険料納付済期間が25年以上ある方が亡くなった場合」です。
そして「保険料納付済期間、保険料免除期間、合算対象期間を合計した期間が25年以上ある方が亡くなった場合」が4つ目の受給要件となります。
遺族基礎年金の受給期間は、子どもが18歳を迎える年度末までとなります。例えば、子が12月1日に18歳を迎えた場合、翌年の3月31日まで受給できます。18歳を迎えてすぐ受給権が消失するわけではありません。翌年の障がいの状態にある子の場合は、20歳を迎えた年の年度末までとなります。
被保険者の保険料納付要件
上記の1つ目と2つ目の受給要件に該当した場合でも、被保険者の保険料納付要件を満たす必要があります。
具体的には、「保険料納付済期間と保険料免除期間をあわせた期間が、被保険者期間の2/3以上あること」が必要です。この保険料納付済期間には、以下の項目が含まれます。
- 厚生年金保険の被保険者期間
- 共済組合の組合員期間
被保険者期間は、死亡日が含まれる月の前々月までです。例えば、令和5年の11月1日に亡くなった場合は、令和5年の9月までが被保険者期間です。
なお、保険料納付要件には特例が設けられています。生計維持者の亡くなった日が令和8年3月31日までの場合、以下のすべての項目に該当すれば、納付要件をクリアしたとみなされるのです。
- 死亡日において65歳未満であること
- 死亡日の前日において、死亡日が含まれる月の前々月までの直近1年間の間に保険料の未納がないこと
例えば、令和5年11月に亡くなった方の場合は、令和4年10月から令和5年9月までの直近1年間(12ヶ月間)の間に、未納期間が含まれていなければ納付要件はクリアです。納付もしくは免除によって、未納期間がなければ問題ありません。
対象者
対象者は、生計を維持されていた「子のある配偶者」と「子」です。子のいない配偶者は、対象外となりますのでご注意ください。
受給対象者にあたる子は、被保険者が亡くなった際に、18歳を迎えた年度の3月31日を経過していなければ受給対象となります。18歳に達してすぐに受給権が消滅するわけではなく、18歳に到達した年度の末までは遺族年金を受給できるのです。
もしも障害年金の障害等級1級または2級の状態であれば、20歳を迎えた年度の3月31日を経過していなければ問題ありません。年齢要件が変更される点に注意しましょう。
そのほかの注意点がこちらです。
- 子のある配偶者が受給している間は、子は遺族年金を受給できない
- 子が婚姻している場合は、受給できない
- 被保険者が亡くなったときに胎児であった子は、出生後に受給権が発生する
受給額
受給額は、一律に定められた受給額に子の人数に応じた額が加算されていきます。
令和5年度における遺族基礎年金の計算式がこちらです。
配偶者の生年月日 | 計算式 |
---|---|
昭和31年4月1日以前に生まれた子のある配偶者 | 79万2,600円+子の加算額 |
昭和31年4月2日以後に生まれた子のある配偶者 | 79万5,000円+子の加算額 |
子の人数と加算額もチェックしましょう。
子の人数 | 加算額 |
---|---|
1人目および2人目の加算額 | 22万8,700円 |
3人目以降の加算額 | 7万6,200円 |
3人目の子から加算額が変わっていますのでご注意ください。上記をふまえて具体的な受給額を表でみてみましょう。
遺族 | 遺族基礎年金の年間受給額 |
---|---|
配偶者のみ(子が受給要件を満たさない場合) | なし |
配偶者と子1人 | 102万3,700円 |
配偶者と子2人 | 125万2,400円 |
配偶者と子3人 | 132万8,600円 |
配偶者と子4人 | 140万4,800円 |
父子家庭の遺族基礎年金
2014年の年金法改正にともない、従来は受給対象外であった父子家庭も遺族基礎年金を受給できるようになりました。
改正にともない、妻に生計を維持されていた夫も生活の保障を受けられるようになった点は、男女格差が是正されたといえるでしょう。ただし、中高齢寡婦加算と寡婦年金は父子家庭の対象外となっています。
寡婦とは、夫と離婚または死別した妻が再婚せずに独身のままでいる女性を指し、男性は含まれません。
子のいない配偶者は「遺族厚生年金」
遺族厚生年金とは、厚生年金保険の被保険者や被保険者であった方が亡くなった場合に、生計を維持されていた遺族が利用できる年金制度です。子のいない配偶者や父母なども受給の対象となります。
受給要件
以下の項目に1つ以上該当すれば受給対象です。
まずは「厚生年金の被保険者である間に亡くなった場合」です。生計を維持している方が、厚生年金に加入していることが条件となります。
「厚生年金の被保険期間に、初診日がある病気やケガが原因で、初診日から5年以内に亡くなった場合」が2つ目の受給要件です。初診日とは、亡くなる原因となった病気やケガについて、はじめて医師または歯科医師の診察を受けた日を指します。
例えば、A病院で診察を受けたあとにB病院で別の医師から診察を受けたとしても、A病院の診察日が初診日となります。
3つ目の受給要件は、「1級あるいは2級の障害厚生年金を受給している方が亡くなった」場合です。障害厚生年金とは、厚生年金保険に加入している期間に、障害等級の1級または2級に該当する状態になった方が受給する制度です。
4つ目の受給要件は、「老齢厚生年金の受給権を持つ方で、保険料納付済期間などが25年以上ある方が亡くなった場合」となります。
5つ目の受給要件は、「保険料納付済期間、保険料免除期間、合算対象期間を合計した期間が25年以上ある方が亡くなった場合」です。
上記の1あるいは2を満たしている方でも、保険料納付要件を満たしていないと受給できません。詳しくは、「被保険者の保険料納付要件」をご覧ください。
対象者
対象者と優先順位がこちらです。
- 子のある配偶者
- 子
- 子のいない配偶者
- 父母
- 孫
- 祖父母
子のいない配偶者に受給権が認められている点が大きな特徴です。「婚姻の届け出を出していない内縁状態の配偶者」にも受給権が認められています。
また、子の場合は、亡くなった方の実子または養子でなくては受給権がありません。配偶者の子(実子ではない)が受給するためには、養子縁組を行っている必要があります。
受給期間
受給期間は亡くなった日の翌月からとなります。詳しい内容は以下のとおりです。
遺族 | 受給期間 |
---|---|
子がいる妻または30歳以上の妻 | 亡くなった翌月から受給者が亡くなるまで |
子がいない妻または30歳未満の妻 | 亡くなった翌月から5年間 |
子または孫 | 亡くなった翌月から18歳の年度末まで※1 |
夫、父母、祖父母※2 | 60歳から受給者が亡くなるまで |
受給額
受給額は、亡くなった方の老齢厚生年金における報酬比例部分に3/4を掛けた額となります。老齢厚生年金とは、厚生年金の加入期間がある65歳以上の方に支給される年金制度を指します。
老齢厚生年金の具体的な受給額がわかる方は、受給額に3/4をかけて計算してみましょう。
受給額がわからないという方は、以下の方法で確かめられます。
- 年金事務所に相談する
- ねんきん定期便を確認する
- ねんきんネットで試算する
ご自身で受給額を計算する際は、以下の計算式によって算出できます。
遺族厚生年金の受給額=A+B×3/4
- A=(平均標準報酬月額)×(7.125/1,000)×(平成15年3月までの加入期間の月数)
- B=(平均標準報酬額)×(5.481/1,000)×(平成15年4月以降の加入期間の月数)
上記の計算式は複雑なため、年金事務所や年金相談センターに相談してみてもよいでしょう。
遺族年金の請求方法と必要書類
遺族年金を受給するためには、下記の手続きを踏む必要があります。必要な手続きを進めないと受給できない点に注意しましょう。
- 年金請求書を記入する
- 添付書類を用意する
- 年金請求書と添付書類を提出する
年金請求書は、年金事務所または年金相談センターで入手できます。インターネットから入手する場合は、日本年金機構のホームページを利用しましょう。
なお、受給者が何らかの理由で自筆できない場合は代筆が可能です。受給者氏名にご本人の名前を記入したうえで、摘要欄に「代筆 子 〇〇」などと代理した方の氏名を記載しましょう。
年金請求書のほかに、必要となる主な書類がこちらです。
- 年金手帳(基礎年金番号が明記されている書類も可)
- 戸籍謄本
- 世帯全員が記載された住民票の写し
- 亡くなった方の住民票の除票
- 市区町村長に提出した死亡診断書のコピー(または死亡届の記載事項証明書のコピー)
- 請求者の所得を確認できるもの(所得証明書や課税証明書など)
- 請求者名義の預金通帳やキャッシュカードなど
書類の提出先はこちらです。
遺族基礎年金のみの場合 | 住まいのある市区町村 |
---|---|
遺族厚生年金の場合 | 最寄りの年金事務所 または 年金相談センター |
必要書類を提出したあと、2ヶ月以内に年金証書が自宅に届きます。年金証書は、受給権があることを証明するものですので、大切に保管しましょう。
遺族年金が指定した口座に振り込まれるのは、年金証書が届いてから、およそ1ヶ月、2ヶ月後の偶数月となります。そのため、書類提出から最長で4ヶ月ほどをみておくとよいでしょう。
なお、遺族年金の受給権は、死亡日の翌日から数えて5年経過すると消滅しますのでご注意ください。
遺族年金以外に配偶者が知っておきたい制度
配偶者が利用できる公的な制度をご紹介します。4つの制度について、受給要件や受給額などをみていきましょう。
中高齢寡婦加算
中高齢寡婦(ちゅうこうれいかふ)加算は、遺族厚生年金を受給している妻が利用できる制度です。遺族厚生年金に年額59万6,300円が加算されます。遺族基礎年金は対象外となりますのでご注意ください。
中高齢寡婦加算の受給要件はこちらです。
- 妻の年齢が40歳以上65歳未満である(夫が亡くなった当時)
- 生計を同じにする子がいない
- 生計を同じにする子がいるが、18歳を迎えた年度の3月31日を経過したことで、遺族基礎年金の受給権を失った
寡婦年金
寡婦年金とは、保険料納付期間に応じた額を有期年金として受給できる制度です。老齢年金支給開始前の寡婦を保護する目的があるため、受給対象は寡婦のみです。父子家庭は含まれませんのでご注意ください
受給するには以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 夫を亡くした妻が受給する
- 夫が生計を維持していた
- 夫(国民年金第1号被保険者)の保険料納付済期間と保険料免除期間が10年以上ある
- 亡くなった夫が老齢基礎年金または障害基礎年金の支給を受けたことがない
- 妻が老齢基礎年金を繰り上げて受給していない
受給額は、夫が亡くなった日の前日までの期間において、第1号被保険者の期間から、老齢基礎年金の計算方法により算出した額に3/4を掛けた額です。仮に夫の老齢基礎年金が120万円の場合は、90万円となります。
なお、寡婦年金と死亡一時金の両方を受け取れる場合は、どちらか一方を選択して受け取ることとなります。
死亡一時金
死亡一時金とは、遺族(配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹)が受け取れる制度です。保険料を納めた期間によって額が変わります。
受給できるのは、以下のすべての項目にあてはまる方です。
- 亡くなった方が国民年金第1号被保険者である
- 納付済期間が36月以上(3年以上)ある
- 亡くなった配偶者が老齢基礎年金、または障害基礎年金の支給を受けたことがない
- 遺族基礎年金を受け取れる方がいない
具体的な金額はこちらです。
保険料納付月数 | 金額 |
---|---|
36月以上180月未満 | 12万円 |
180月以上240月未満 | 14万5,000円 |
240月以上300月未満 | 17万円 |
300月以上360月未満 | 22万円 |
360月以上420月未満 | 27万円 |
420月以上 | 32万円 |
児童扶養手当
児童扶養手当は、残された配偶者がひとり親家庭になった場合に利用できる制度です。
遺族年金の受給額が、児童扶養手当の月額より低い場合に受給対象となります。もしも児童扶養手当よりも、遺族年金が高い場合は、受給対象とはなりません。
ただし、児童扶養手当の月額を超えない場合は、児童扶養手当の月額の範囲内で差額を受給できます。該当する方は確かめておきましょう。
児童扶養手当の受給額はこちらです。
子の年齢 | 受給額 |
---|---|
0歳から3歳未満 | 1万5,000円 |
3歳から小学校卒業前 | 1万円1万5,000円(第3子以降の場合) |
中学生 | 1万円 |
おすすめの記事
ほかにもこちらのメディアでは、遺族年金がもらえないケースや遺族年金はいつまでもらえるのかについても解説しています。ぜひこちらの記事もご確認ください。