遺産分割協議書の作成は手書きでもパソコンを用いても構いませんが、いずれの形で作成するにしても気になるのが「書き間違い」ではないでしょうか?
遺産分割協議書で書き間違いがあった場合、どのような対処法があるか知っていますか?
主な訂正方法は下記の3つです。
- 訂正印による訂正
- 捨印による訂正
- 遺産分割協議書の作り直しによる訂正
この記事では、それぞれの訂正方法、特に「捨印」を用いた訂正方法にフォーカスを当てて遺産分割協議書の訂正方法について解説します。
これから遺産分割協議書を作成する予定がある方はぜひ読んでください!
- 遺産分割協議書における軽微なミスは「捨印」で訂正できる
- 「捨印」は他の相続人が遠方に住んでいる際に便利!
- 遺産分割協議書には「訂正印」や「捨印」だけでなく、「割印」や「契印」などさまざまなタイプの押印がある
遺産分割協議書とは?
遺産分割協議書とは遺産分割協議をした際に作成する書類のことです。
遺産分割協議は、被相続人が遺言書を残していなかったり、遺言書を残しているものの相続人全員がその内容に納得できなかったりした場合に実施します。
内容は遺産の分配方法についてです。つまり、遺産分割協議を通じて、「誰が」「どの財産を」「どのくらい」相続するのかが話し合われ、遺産分割協議書にその旨が記載されます。
遺産分割協議書には相続人全員の同意と押印が必要であることから、原則として遺産分割協議には全ての相続人が参加することが必要です。
そして、遺産分割協議書が出来上がって初めて、預金の解約や相続税の申告など相続の手続きがスタートできます。
遺産分割協議書作成中に書き間違えたらどう訂正するの?
遺産分割協議書の作成については手書きでもパソコンでもどちらでも構いません。しかし、いずれにしても記載内容が間違えていたり、書き間違えてしまったりすることもあるでしょう。
ここでは、遺産分割協議書作成中の書き間違えの訂正方法について、書き間違えた箇所ごとに解説します。
相続人に関する記載を書き間違えてしまった場合
相続人の氏名や住所などを書き間違えてしまった場合は、書き間違えた部分を二重線で消して、周辺に正しく書き直し、書き間違えた相続人の実印(印鑑登録している印鑑)だけを押します。
相続人に関する情報は、遺産分割協議書そのものの内容や、他の相続人に影響を与えないからです。書き間違えた相続人だけに影響するミスであることから、1人分の訂正印で訂正できます。
被相続人や相続財産に関する記載を書き間違えてしまった場合
続いて被相続人や相続財産に関する記載を書き間違えてしまったケースについてです。
この場合は先ほどと同様に、書き間違えてしまった部分を二重線で消して、周辺に正しく書き直し、訂正箇所に相続人全員の実印を押す必要があります。
これは、被相続人や相続財産の内容に訂正があったことに対して、相続人全員が了解していることを証明する必要があるからです。相続人の誰かが遠方に住んでいても、全員の訂正印がなければ訂正として有効にならないため、必ず押印してもらう必要があります。
重要な箇所を書き間違えてしまった場合
遺産分割協議書において訂正できるのは、住所や日付、誤字脱字など軽微な書き間違いのみです。
下記のように書類の中で重要な箇所を書き間違えてしまった場合や漏れがあった場合は、遺産分割協議書を再度作成することをおすすめします。
- 相続財産そのものの修正
- 財産配分の変更
- 相続人の追加
- 遺産の漏れ
- 被相続人や相続人の住所、氏名、生年月日の全部修正
- 複数ある訂正箇所
捨印を使った訂正方法
次に、捨印を用いた訂正方法について紹介します。
捨印とは?
捨印とは、誤字・脱字等の軽微などの書き間違いをしてしまった場合に備えて、その書き間違いを訂正する権限を与えるために相続人全員が遺産分割協議書の欄外に押す印のことを指します。文書の中で押印した印鑑と同じもの、つまり実印を使用しましょう。
遺産分割協議書で書き間違いがあった場合は、上記で紹介した方法で訂正することが一般的です。
しかし、遠方に住んでいる相続人がいる場合、上記の方法で訂正することは現実的であるとは言えないでしょう。その相続人を訪ねたり、遺産分割協議書をその相続人の元に郵送で送ったりと、時間と手間がかかってしまうからです。また、郵送中に遺産分割協議書を紛失するリスクもあります。
相続人全員の「捨印」があると、軽微な書き間違いについては関係する相続人の押印なしに訂正することが可能です。訂正にかかる時間と手間を節約できます。
捨印と訂正印の違い
捨印と訂正印は、いずれも遺産分割協議書における書き間違いに対する訂正方法として使われる印のことです。
訂正印は、文書の一部を訂正したいときに押します。書き間違いがある箇所を二重線で消し、その周辺に正しい内容を記載して二重線の上または周辺に押す印のことです。実印を使います。
それに対して捨印とは、遺産分割協議書などの文書の余白の部分に押す印のことです。捨印を使った具体的な修正方法については後述しますが、書き間違いのある部分を二重線で引き、その上に正しい内容を記載した上で、「○字削除」「○字追加」と削除・追加した文字数も書き加えます。
訂正印と同じく、相続人全員の捨印が必要です。
遺産分割協議書に捨印を使うメリット
捨印の活用によって、相続に関する手続きがスムーズに進められます。
上記にもありますが、遺産分割協議書で書き間違いをしてしまったものの、他の相続人が遠方に住んでいる場合、訂正印であれば、わざわざその相続人の元を訪れたり、その相続人に遺産分割協議書を郵送したりする必要があり、面倒です。
しかし、捨印であれば時間や手間をかけずに訂正できます。
遺産分割協議書に捨印を使うデメリット
捨印による遺産分割協議書の書き間違いの訂正は便利ではありますが、一部の相続人によって悪用されてしまうかもしれないというデメリットもあります。
たとえば、一部の相続人が遺産分割協議書を自分にとって都合のよい内容に書き換えて、税務署・法務局・金融機関に提出するといったケースです。
捨印での訂正は「軽微な書き間違い」と限定されていますが、「軽微な書き間違い」に関する明確な規定がないため、このようなリスクも想定しておく必要があります。
このような意図していない訂正を防ぐために、遺産分割協議書を作成する前に捨印した文書を誰に預けるのかを慎重に検討することがおすすめです。
捨印を用いた訂正方法の例
捨印を用いた訂正方法の例を紹介しましょう。
例えば、相続人「山田正」さんの氏名を「山田正男」と書き間違えてしまったとしましょう。
- 正)山田正→誤)山田正男
書き間違いの部分である「正男」を二重線で消し、正しい内容である「正」を書き間違えた箇所の上に記載します。そして、この場合「正男」という2文字を削除して、「正」という1文字を追加しているため、捨印の近くに「2文字削除」「1文字追加」と記載してください。
遺産分割協議書におけるその他の押印方法
遺産分割協議書には「訂正印」や「捨印」だけでなく、「契印」や「割印」など他にも押印方法があります。ここでは、「契印」と「割印」について紹介します。
契印
「契印」とは、複数枚ある遺産分割協議書が、ひとつなぎの書類であることを証明するために押印するものです。
たとえば冊子になっている遺産分割協議書のページを一部抜き取って改ざんした場合、そのページに契印がなければ改ざんしたことが発覚する上に、そのページの記載内容が無効になります。
契印がなくても、遺産分割協議書は有効な契約書として見なされますが、書類の改ざんを防ぐために契印を押しておくことがおすすめです。
製本タイプの遺産分割協議書の場合は、製本テープにまたがって相続人全員分の実印を押すことが一般的です。しかし、この場合、下記のように3パターンあります。
- 表面と裏面の両面に契印
- 表面のみに契印
- 裏面のみに契印
ホッチキス留めの遺産分割協議書の場合は、全ページの見開きごとに契印します。
割印
遺産分割協議書は、相続人全員が署名捺印した原本と控えを作成します。不動産や預金の名義変更を行う相続人の代表者が原本を所有し、その他の相続人が控えを保有します。原本と控えに関連性があることを示すために押印する印が「割印」です。
割印を押したい遺産分割協議書の原本と全ての控えをずらして重ねてください。ずらし方は書類を上下にずらしたり、斜めにずらしたりすることが一般的です。そしてずらした遺産分割協議書の原本とその控え全てに、実印がまたがるように押印してください。
必ずしも相続人全員分の割印を押す必要はありません。複数の相続人のうちの1人の実印による割り印でも構いません。
しかし、相続人全員が押印した方が書類としての信頼性を高めることにつながります。相続人の数が多すぎたり、遠方に住んでいたりと特別な理由がない限りは、相続人全員分の割印をすることがおすすめです。
割印を押すことで原本や控えの改ざんや不正な複製を防ぐことができます。たとえば、遺産分割協議書作成後に、原本の改ざんが行われた場合、持っている控えに割印があれば、控えを受け取った後に改ざんが行われたことが分かるということです。
契印と同様に割印がなかったとしても、遺産分割協議書の法的効力に変わりはありませんが、改ざんや不正な複製を避けるために割印をしておくと安心でしょう。
捨印を用いる際の注意点
捨印を用いる際に注意すべき点が4点あり、下記の通りです。
- 遺産分割協議書における全ての書き間違いに適用できるわけではない
- 捨印を押す場所に特に決まりはない
- 遺産分割協議書には実印で押印する
- 遺産分割協議書を訂正したとしても日付まで変える必要はない
それぞれの注意点について詳しく解説します。
遺産分割協議書における全ての書き間違いに適用できるわけではない
捨印を用いれば、関係する相続人の押印なしで遺産分割協議書の書き間違いの訂正ができます。しかし、全ての書き間違いに捨印を適用できるわけではありません。
下記のように軽微な書き間違いだけに、捨印が適用されるのでご注意ください。
- 明らかな誤字脱字
- 被相続人、相続人の住所・氏名・生年月日の一部修正
- 遺産分割協議書に添付されている印鑑登録証明書の記載と整合させるような訂正
これ以外の書き間違いについて捨印を使用していいのか判断できない場合は、金融機関や法務局、そして税務署に確認すればわかりますが、手間と時間がかかるためおすすめしません。
最初に説明した方法で訂正をするか、遺産分割協議書の作成をやり直すかのいずれかの方法を選びましょう。
捨印を押す場所に特に決まりはない
捨印を押す場所に明確な決まりはありません。
しかし、捨印は目立つ上に、「○字削除」「○字追加」などの情報を記載するためのスペースが必要であることから、遺産分割協議書の枠外または上部か下部の余白部分に押印することがおすすめです。
遺産分割協議書には実印で押印する
法律で遺産分割協議書に実印で押印することが定められてはいません。
しかし、相続税の申告や相続登記、銀行口座の相続手続きなどに、実印が押印された遺産分割協議書と印鑑証明書が必要であることから、遺産分割協議書には実印で押印する必要があるのです。
「実印」とは、居住している市町区村の役所に印鑑登録した印鑑のことです。もし実印を持っていない場合は、登録のためのハンコを用意して印鑑登録をすれば、そのハンコを実印として使うことができます。
遺産分割協議書を訂正したとしても日付まで変える必要はない
遺産分割協議書の内容を訂正したら、協議書作成の日付も変更する必要があるのではないかと考える方もいるのではないでしょうか?
遺産分割協議書を訂正したとしても、日付まで変える必要はありません。遺産分割協議書の日付は「遺産分割協議日」または「最後の相続人が署名押印した日」である必要があります。そのため、訂正したからといって、日付まで変更する必要はないので気をつけましょう。
遺産分割協議書や捨印に関するFAQ
最後に、遺産分割協議書や捨印に関するよくある質問とその回答について紹介します。
遺産分割協議書に押印する人は誰?
遺産分割協議書には、相続人全員が押印する必要があります。
遺産分割協議書は何部必要?
遺産分割協議書の必要部数は、相続人全員の手に渡るほどの部数が必要です。
相続登記をする場合、法務局遺産分割協議書の原本を提出する必要がありますが、コピーを添付して原本還付の手続きをすれば、登記が完了した後に遺産分割協議書の原本が返却されます。
銀行などの金融機関で相続の手続きをする場合も、金融機関で遺産分割協議書のコピーを取って原本は返してもらえることが一般的です。不安な方は事前に関係する金融機関に問い合わせてみましょう。
遺産分割協議書に印紙は必要?
遺産分割協議書は印紙税法の課税文書に該当しないため、遺産分割協議書に印紙の貼り付けは不要です。
遺産分割協議書の製本方法は?
遺産分割協議書が複数枚になる場合、ホッチキス留めにしてそれぞれのページの継ぎ目に割印を押印するのは手間がかかります。そのため、袋とじにして、製本テープの部分に割印するのがおすすめです。
下記の方法を参考にして遺産分割協議書を製本してみましょう。
製本テープとホッチキスを用意してください。どちらも100円ショップや文房具屋で入手できます。製本テープは後ほど印鑑が目立つように、白色のものを選ぶことがおすすめです。
- 複数枚ある遺産分割協議書をホチキスで留める
- 製本テープを縦で半分に折って、その折り目を遺産分割協議書の端に合わせる
- テープを片方だけ剥がし、テープを貼り付けると表面が完成する
- 遺産分割協議書の束を裏返して、裏面のテープを剥がす
- 裏面もテープを貼り付けたら完成
遺産分割協議書の押印はやり直しができるの?
遺産分割協議書には、訂正印だけでなく、捨印、契印、割印などさまざまなタイプの押印があることをこの記事で紹介しました。しかし、押印の種類が多く、さらに相続人の数が多い場合、押印したときにインクのつけ過ぎで見えなくなってしまったり、かすれてしまったりしまうこともあるでしょう。
その場合は、失敗した押印に重なるように再び同じ印鑑を使って押印し、すぐ近くに押印し直してください。実印の訂正に二重訂正線は絶対に使ってはいけません。
特に割印の場合は、遺産分割協議書の控えの枚数が多いと、一度に綺麗に押印するのが難しいです。割印は必要不可欠なものでないため、このような場合は割印の押印を諦めてもよいかもしれません。
遺産分割協議書作成後に新しい財産が見つかった場合はどうすればいいの?
遺産分割協議書作成後に新しい財産が見つかった場合は、遺産分割協議書を作り直すのではなく、別の遺産分割協議書を作成することをおすすめします。
遺産分割協議書は1枚でなくてはならないという決まりはなく、複数枚あっても問題はありません。
遺産分割協議書の作成期限は?
遺産分割協議の実施や遺産分割協議書の作成に関して法律で定められた期限はありません。しかし、遺産分割協議の結果を反映して行う「相続税の申告」は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内と定められています。
遺産分割協議が被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内に完了していない場合、相続税を節税するための各種控除を受けられなくなってしまうため、相続税申告の期限までに遺産分割協議を終わらせ、遺産分割協議書を作成することがおすすめです。
まとめ
この記事では「捨印」を用いた遺産分割協議書の訂正方法について解説しました。捨印は遺産分割協議書における軽微な書き間違いの訂正に便利な方法です。
しかし、悪用されるリスクもあることを忘れてはいけません。
捨印や訂正印を用いた訂正方法、または遺産分割協議書の再作成いずれの訂正方法を用いるにしても、相続人同士のトラブルを防ぐために事前にどの訂正方法を使うのかを相続人同士で話し合っておくことをおすすめします。
また、遺産分割協議書には「訂正印」や「捨印」だけでなく、「割印」や「契印」など他にもさまざまなタイプの押印があります。
割印や契印は必要不可欠なものではないですが、便利で、遺産分割協議書の不正な複製や改ざんを防ぐ安心材料になるため、これらの押印の意味合いや押し方についても理解して正しく活用できるようにしておくことがおすすめです。
ほかにもこちらのメディアでは遺産分割協議に期限はある?といったテーマや、遺産分割協議書と印鑑証明書はセット?といったテーマについても解説しています。ぜひこちらの記事もご確認ください。