「相続登記はオンライン申請できると聞いたけど方法が分からない」と不安を抱く方もいるでしょう。
オンライン申請には申請用ソフトのインストールや初期設定をはじめ、さまざまな事前準備が発生します。初めての利用だと戸惑うかもしれませんが、法務局に出向く時間や手間を省けるため、忙しい方におすすめの方法です。
今回は相続登記のオンライン申請のメリット・デメリット、事前準備や申請用総合ソフトの操作について解説します。
- 相続登記はオンライン申請できる
- 申請用ソフトのインストールや申請者情報の登録などの事前準備が必要
- 添付書類はオンラインでは送付できず、窓口への持参または郵送しなければいけない
相続登記はオンライン申請できる
相続登記とは相続した不動産の名義を、被相続人から相続人へと移す手続きです。相続登記は法務局の窓口での手続きのほか、オンライン申請にも対応しています。申請用総合ソフトを自宅のPCにインストールして、ソフトの画面上で申請書を作成・送信します。
添付書類は別途、郵送で提出する必要がありますが、法務局に直接出向かなくてよいのは大きな利点です。忙しくて窓口に行く時間がない方や、管轄の法務局まで距離がある方などにおすすめできます。
相続登記を自分でする方法は「窓口申請」「郵送申請」「オンライン申請」の3つです。それぞれの概要やメリット・デメリットを表にまとめました。どの方法で行うべきか迷っている方はご確認ください。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
窓口 | ・軽微な不備であればその場で修正できる ・確実に申請書類を渡せる | ・平日の日中以外は利用できない ・法務局まで距離があると大変 |
郵送 | ・法務局が遠方でも利用しやすい ・移動の時間が節約できる | ・申請書類が到達しない可能性もある ・補正があった場合、期限内での対応が難しくなる |
オンライン | ・法務局に出向く必要がない ・夜まで申請を受け付けている | ・事前準備に手間がかかる ・添付書類は郵送で送付する必要がある |
相続登記は2024年4月1日から義務化されます。従来はするかしないか任意で決められたのですが、今後は期限までに申請を行わないと罰則の対象です。
手続きが面倒で今まで放置していた方が、こぞって相続登記の申請を出すと推測されます。オンライン申請を利用して、少しでも相続登記の手間や負担を軽減しましょう。
相続登記をオンライン申請するメリット
相続登記をオンライン申請するメリットは、窓口に出向かずに済むだけにとどまりません。受付時間が長く利用しやすいこと、オンライン上で補正および登録免許税の納付ができることは大きな利点です。オンライン申請の詳しいメリットをご紹介します。
- 夜まで申請を受け付けていて利用しやすい
- オンライン上で補正できる
- 登録免許税の支払いができる
夜まで申請を受け付けていて利用しやすい
オンライン申請の受付時間は窓口の開庁時間より長く、夜遅くまで利用できるのが利点です。法務局の受付は平日の8時30分から夕方の17時15分までですが、総合用申請ソフトは平日の21時15分まで使用できます。
窓口申請の場合、平日に仕事がある方は休暇を取得しないと手続きが難しいでしょう。オンライン申請なら仕事帰りでも受け付けているため、会社員でも利用しやすい方法です。
オンライン上で補正できる
登記申請書に不備があった際の、補正処理までオンライン上で行えます。通常では記載内容に漏れや誤りがあった場合、郵送または窓口に出向いて、修正した申請書を渡す必要があります。
ただし遺産分割協議書や戸籍等の添付書類は、オンラインでは送信不可なのでご留意ください。修正がある場合、システム上で通知が届きます。法務局から電話連絡が来るわけではありませんが、修正の依頼は確認できるのでご安心ください。
登録免許税の支払いができる
オンライン申請では、相続登記の費用の1つである登録免許税の納付にも対応しています。インターネットバンキング等を経由して、電子納付で済ませることが可能です。窓口や郵送での申請の場合、金融機関に対する現金納付、収入印紙の購入などの方法もとれます。
登録免許税は10万円以上の高額におよぶケースも多々あり、現金で持ち運ぶ際に不安を抱く方もいるでしょう。電子納付ではインターネットバンキングの預貯金を使うため、現金を持ち歩く必要がありません。
相続登記をオンライン申請するデメリット
時間がない方でも手軽に利用できるオンライン申請ですが、申請用ソフトのインストールや初期設定などの事前準備が必要です。またオンライン上で提出できるのは一部の書類のみで、手続きを完了するには別途、添付書類の郵送が伴います。
相続登記をオンライン申請するデメリットをみてみましょう。
- スマホからは手続きできない
- 事前準備に手間がかかる
- 添付書類はオンラインで送付できない
スマホからは手続きできない
相続登記のオンライン申請はPCから行う必要があり、スマホからは手続きできません。パソコンに申請用の総合ソフトをインストールしたうえで、申請書の作成や提出を行います。
申請用のスマホアプリはなく、法務局のWebサイトにアクセスしても、ブラウザ上で操作はできません。パソコンの接続環境はWindows10、または8.1以上が推奨されています。
事前準備に手間がかかる
オンライン申請は次の事前準備が必要で、申請までに手間が生じるのがデメリットです。
- 申請用総合ソフトのインストール
- (持っていない場合)マイナンバーカードの取得
- (持っていない場合)ICカードリーダライタの取得
申請用総合ソフトはインストールしてすぐ使えるのではなく、はじめに初期設定が必要です。ほかにも信頼済みサイトへの登録、安全な通信を行うための証明書の取得、申請者情報の登録などの作業が発生します。
カードリーダは家電量販店やECサイトでも購入できますが、マイナンバーカードは住所地の市区町村で事前の取得が必要です。
また相続登記の申請では、申請者による電子証明書の取得が必要です。はじめての方は、説明書や利用の手引きなどを確認しながら作業を進めましょう。
添付書類はオンラインで送付できない
相続登記のオンライン申請で送付できる書類は、登記申請書と相続関係説明図のみです。添付書類の住民票や戸籍、遺産分割協議書等は郵送、または窓口への持参による対応が求められます。すべての手続きがオンラインで完結するわけではないことに注意しましょう。
書類名 | |
---|---|
オンライン申請で送付可能 | ・登記申請書 ・相続関係説明図 |
郵送、または窓口への持参 | ・住民票 ・戸籍 ・遺産分割協議書等 |
添付書類は省略できないため、申請書のみ送付しても受理されません。補正の指示を受けるとかえって時間がかかるので、事前確認のうえ、添付が必要な書類は漏れなく送付しましょう。
相続登記をオンライン申請する手順
相続登記をオンライン申請する基本的な手順は次のとおりです。
- 登記に必要な書類を取りまとめる
- オンライン申請に必要な機器をそろえる
- 申請用総合ソフトをインストールする
- 画面上で申請書を作成する
- 書類の添付および電子署名を行う
- 申請データを送信する
- 登録免許税を納付する
- 添付書類を送付する
各ステップの詳細を解説します。
1.登記に必要な書類を取りまとめる
まず窓口や郵送での申請と同様、登記に必要な書類を取りまとめます。
- 被相続人の出生時から死亡時までの戸籍
- 被相続人の除票
- 相続人全員の戸籍謄本
- (遺産分割が伴う場合)遺産分割協議書
- (遺産分割が伴う場合)相続人全員の印鑑証明書
- 固定資産税の評価証明書
- (任意)相続関係説明図
通常の登記申請と異なるのは、不動産を取得する相続人の住民票が省略できることです。システムの電子証明書機能によって本人確認が完了するためです。
2.オンライン申請に必要な機器をそろえる
オンライン申請に必要なPCやマイナンバーカード、ICカードリーダライタ等を準備します。
また、登記・供託オンライン申請システムのホームページから申請者情報の登録が必要になります。申請用総合ソフトを使うための利用者IDやパスワードを取得するためです。
登記・供託オンライン申請システムの「申請者情報登録」から画面に表示される案内に従って、必要事項を入力します。パスワードは自分で決められますが、申請者IDはシステムに登録済みのものを使用してください。
3.申請用総合ソフトをインストールする
供託オンライン申請システムのホームページから、申請用総合ソフトをインストールします。申請書の作成から電子署名の付与・送信、データ管理にいたるまで一元的に操作できるのが特徴です。
登記のオンライン申請は市販のソフトでも対応していますが、はじめての方は行政が提供する申請用総合ソフトの利用がおすすめです。
登記・供託オンライン申請システムの申請用総合ソフトは、インターネットに接続していない状態でも利用できます。この場合、申請者用ID・パスワードを入力せずに使用します。
申請書の送信や処理状況の更新など通信を伴う操作以外には、いつでもオフラインで利用可能です。例えばWi-Fi環境がなくてもパソコンでソフトを開いて、補正のお知らせが届いていないか確認できます。
4.画面上で申請書を作成する
申請用総合ソフトを操作して、相続登記の登記申請書を作成します。
- 「申請書を作成」ボタンをクリック
- 申請様式一覧の選択画面から「登記申請書(権利に関する登記)(4)所有権移転(相続)【署名要】」を選択
- 入力画面が出てくるので、項目ごとに正しい情報を入力する
入力項目の不備を防ぐためにも、法務局が公表する「操作手引書(マニュアル)」を確認しながらの作業がおすすめです。
「添付情報」欄では、申請情報の添付書面である登記原因証明情報や住所証明情報などにかかる記載が必要です。登記原因証明情報には戸籍や遺産分割協議書が、住所証明情報には不動産の取得者の住民票記載事項証明書等が該当します。
- 登記原因証明情報:戸籍や遺産分割協議書
- 住所証明情報:不動産の取得者の住民票記載事項証明書等
添付情報欄では「登記原因証明情報(特例)」のように、名称の後に(特例)と入力するのを忘れずに行いましょう。
入力ミスを防ぐためには、不動産の情報入力時に「オンライン物件検索」を利用するのがポイントです。地番や地目を一つずつ入力するより確実で、申請書の作成時間の短縮にもつながりますよ。
5.書類の添付及び電子署名を行う
申請書の作成が完了したら、添付書面の相続関係説明図をPDF化して添付します。
添付の後はマイナンバーカードをカードリーダに差し込み、電子署名を付与してください。選択画面では「ファイルで署名」ではなく「ICカードで署名」を選びましょう。
6.申請データを送信する
法務局に申請書ならびに相続関係説明図を送付する手順をご紹介します。
- 「申請データ送信」をクリック
- 送信前申請一覧から対象の申請情報の「送信対象」欄にチェック
- 「送信」をクリック
- 送信確認のダイアログを確認後「OK」をクリック
- 送信前申請一覧に戻って、対象の申請情報が「送信完了」の状態か確認
- 法務局に申請済みの状態を表す「受付確認」に切り替わる
- 「受付確認」をクリックし、受付番号や受付日が記載された「受付のお知らせ」を確認
「受付のお知らせ」は申請者の特定に用いられる重要な情報です。データの破損を防ぐために、印刷のうえ、紙での保管をおすすめします。
7.登録免許税を納付する
相続登記のオンライン申請では登録免許税の納付も可能です。なお登録免許税の納付方法は電子納付のほか、現金振込や収入印紙による納付にも対応しています。オンライン申請でも上記の3パターンから任意で選択できます。
現金納付では銀行振込の完了後、申請用総合ソフト上で「登録免許税納付用紙」を印刷し、領収証書を貼付してください。収入印紙による送付の場合は「登録免許税納付用紙」に、収入印紙をそのまま貼り付けます。
登録免許税の電子納付は、インターネットバンキングの利用、またはATMによる納付の2つの方法があります。ネットバンキングやモバイルバンキング等から納付する場合、事前に各金融機関での手続きが必要です。対応していない金融機関もあるので、利用の可否は「e-Gov電子納付」でご確認ください。
方法 | |
---|---|
現金納付 | 銀行振込の完了後、申請用総合ソフト上で「登録免許税納付用紙」を印刷し、領収証書を貼付 |
収入印紙による送付 | 「登録免許税納付用紙」に、収入印紙をそのまま貼り付け |
電子納付 | ・ATMによる納付 ・ネットバンキングやモバイルバンキング等から納付する場合、事前に各金融機関での手続きが必要 |
8.添付書類を郵送する
最後に戸籍や住民票、遺産分割協議書、遺言書等の添付書類を郵送します。郵送すべき書類は相続登記の添付書面に限りません。以下に一覧を示します。
- 相続登記に必要な戸籍や住民票等の添付書類
- 書面により提出した添付情報の内訳表
- (電子納付以外の場合)登録免許税納付用紙
- (書類の返送を受けたい場合)返信用封筒
送付時には、申請用総合ソフトでダウンロードした「書面により提出した添付情報の内訳表」の添付が必要です。
処理状況表示画面の「アクション」から「書面により提出した添付情報の内訳表の印刷(不動産)」を印刷できます。申請者または代理人の印鑑(認印で可)が必要です。
相続登記の添付書類は原本で提出します。住民票や戸籍等には重要な個人情報の記載があるので、返送を希望される方もいるでしょう。相続登記の添付書類は、原本還付の手続きを行うことで返却を受けられます。
住民票や戸籍等の返還を求める際は、添付書類の郵送時に返信用封筒を同封しましょう。
繰り返しになりますが、相続登記に必要な書類は重要なものばかりです。確実に送付先の法務局へ届けるために、レターパックや簡易書留など配送状況を確認できる方法を採用しましょう。
相続登記をオンライン申請する際の注意点
相続登記をオンライン申請する際の注意点をご紹介します。
書類の送付期限や税金の納付期限に注意する
相続登記のオンライン申請では添付書類の送付期限や、登録免許税の納付期限に注意が必要です。
- 書類の期限:申請受付日から3日以内
- 税金の納付期限:申請受付日から2日以内
記載内容に不備がなくても期限を過ぎてしまうと、申請が却下される可能性もあります。登録免許税は対象不動産の評価額によって変動し、10万円以上の金額に達することも珍しくありません。
事前に資金を確保しておかないと、納付額に不足が生じる恐れもあります。電子納付の場合、インターネットバンキングの口座残高には注意が必要です。
相続関係説明図は再送信できない
オンライン申請時に送付する相続関係説明図は再送信が認められていません。
相続関係説明図に誤りや記載漏れがあると大変です。補正も認められないため、もう一度はじめから手続きをやり直す必要があります。
補正のお知らせは見落とさない
申請が完了した後も申請用総合ソフトを開き、補正のお知らせが届いていないか確認しましょう。申請書の情報や添付書類に記載漏れ等の不備があるときは、法務局から訂正の依頼が届きます。
地番や住所の誤字等のささいなミスでも法務局側で訂正はできません。申請人が申請書を作り直し、もう一度電子署名を付与したうえで再送信する必要があります。
遺産分割協議書の不備や添付書類の不足なども、よくある補正の1つです。補正にも期限が設けられています。理由なく申請期限を超過した場合、申請が取り下げられる可能性があるため注意が必要です。補正期限は「補正のお知らせ」に記載されています。
添付書類や登録免許税の提出・納付期限と異なり、締め切り日に統一したルールはありません。申請後には補正通知をいつでも確認できる体制を整え、通知が届いたら速やかに対応しましょう。
万一「補正のお知らせ」の期限内での対応が難しい場合は、法務局に相談してください。
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