遺言書と遺留分はどちらが優先される?関係や遺留分対策を解説

遺言書と遺留分の関係について、詳しく知りたいと考えていませんか?

遺留分とは、相続財産のうち最低限相続できる取り分のことです。遺言書の内容によっては、この遺留分と遺言書が対立する場面が出てきます。両者の関係や優先度を知ることでトラブルのない遺産相続を実現できるでしょう。

本記事では、遺言書と遺留分の概要や効力について詳しく解説します。遺留分侵害額請求や遺留分対策についても言及していますので、ぜひ最後までご覧ください。

1分でわかる!記事の内容
  • 遺言書が遺留分を侵害するケースが存在する
  • 侵害された遺留分は遺留分侵害額請求によって取り戻せる
  • 遺留分侵害額請求には、いくつかの要件が存在する

遺言書とは?

遺言書とは、財産の分割方法に関して、被相続人(亡くなった方)の希望を書面に記したものです。例えば、「生前、お世話になったあの人に財産を相続させたい」「長男に多く譲りたい」といった遺言書が考えられます。

遺言書には法的効力が存在するため、家庭裁判所による遺言書の検認を経てから、遺言書の内容に沿って相続が実行されます。遺言書の種類がこちらです。

遺言書と似た意味の言葉に遺書があります。遺書はご自身の死後に、家族や親しい友人・知人などに向けてご自身の気持ちを届けるものです。権利や財産について伝えたい事柄がある場合は、遺言書を作成しましょう。

遺言書が役に立つケースがこちらです。

遺言書が役に立つケース
  • 相続人以外に財産を渡したい方がいる
  • 特定の相続人に多く財産を渡したい
  • 相続人同士の争いを防ぎたい
  • 障がいなどを持つ相続人がいる

なお、財産を所持している方が遺言を残さずに亡くなった場合、財産は民法で定められた「相続人の範囲」と「法定相続分」にしたがって相続されます。法定相続の割合に不満がなければ、必ずしも遺言書によって相続割合を指定する必要はありません。

遺留分とは?

遺留分とは、「相続財産のうち最低限相続できる取り分」または「最低限の財産を相続する権利」のことです。

仮に被相続人が「全財産を愛人に相続させる」という遺言書を残しても、配偶者や子どもたちには、一定の相続財産を取得する権利があたえられています。

遺留分は、被相続人の死後、相続人の生活を保証するために設けられた制度です。相続人は、遺言書によってご自身の遺留分を侵害された際は、遺留分侵害額請求権を行使することで、ご自身の遺留分を確保できます。

遺留分が発生する主なケースがこちらです。

遺留分が発生する主なケース
  • 第三者へ遺贈や贈与が行われた
  • 特定の相続人へ生前贈与が行われた
  • 相続人の間で相続財産に格差がある

なお、遺留分には、総体的遺留分個別的遺留分が存在します。総体的遺留分とは、相続財産に占める遺留分の割合を指し、遺留分の価額を算出する際の基礎となる数値です。総体的遺留分は、相続人の種類によって割合が変化します。

相続人 相続財産に占める遺留分の割合
配偶者と子ども 1/2
配偶者と直系尊属 1/2
配偶者のみ 1/2
子どものみ 1/2
直系尊属のみ 1/3

一方の個別的遺留分とは、総体的遺留分に法定相続の割合をかけ算したものです。

詳しい計算方法は「遺留分侵害額請求とは?」にて解説しますが、遺留分には総体的遺留分と個別的遺留分の2種類があると覚えておきましょう。

遺言書と遺留分の効力

遺言書と遺留分について、効力が発生する時期や期間をみていきましょう。

遺言書の効力

遺言書の効力は、被相続人が亡くなった時点から生じます。遺言書の効力に有効期限は存在しないため、被相続人が亡くなってから遺言書が発見された場合も引き続き有効です。

遺言書の主な効力を確認しましょう。

遺言書の主な効力
  • 相続人の廃除または廃除の取消
  • 相続の割合の指定
  • 遺産分割協議の禁止※期間の上限あり
  • 遺贈
  • 寄付
  • 遺産分割の禁止
  • 子どもの認知
  • 後見人の指定
  • 遺言執行者の指定

遺言書の内容によっては、「特定の相続人に多く(少なく)相続させる」「内縁の妻や孫といった相続資格のない方に遺産を遺贈する」といったことが可能になります。

なお、遺産分割がすでに行われており、その内容が遺言書と異なっていた場合、相続のやり直し(再分割)となるのが原則です。しかし相続人全員の同意を得られた場合は、再分割する必要はありません。

遺留分の効力

遺留分は、遺留分の侵害を知ったときから、遺留分侵害額請求権を行使できるようになります。第三者への遺贈や生前贈与があったことを知り、ご自身の遺留分が侵害されたとわかったときから、遺留分を請求する権利が発生します。

遺留分侵害額請求が認められる相続人がこちらです。

遺留分侵害額請求が認められる相続人
  • 配偶者
  • 子や孫(直系卑属)
  • 親や祖父母(直系尊属)

遺留分の相続人に兄弟姉妹は含まれません。これは、被相続人との関係性が遠いことや生計を別にするケースが多いことなどが原因と考えられています。兄弟姉妹が遺産を受け取るためには、被相続人と話し合い遺言書に書いてもらう必要があるでしょう。

遺留分を侵害する遺言書

遺留分を侵害する遺言書とはどのようなものでしょうか?具体例をみていきましょう。

具体例

「全遺産を長男に相続させる」「全財産を寄付する」と、特定の相続人に多額の遺産を相続したり第三者に寄付したりといった内容が書かれていれば、遺留分を侵害する遺言書となります。

また、相続人へ生前贈与が行われていた場合も要注意です。生前贈与は、遺留分侵害額請求の対象となるため、ご自身の遺留分に関わりがあるかどうか確かめなくてはいけません。遺留分侵害額請求の対象となる生前贈与がこちらです。

遺留分侵害額請求の対象となる生前贈与
  • 相続開始前の10年以内に、相続人に行われた生前贈与
  • 相続開始前の1年以内に、相続人以外に行われた生前贈与
  • 遺留分の侵害が発生することを承知して行われた生前贈与

遺言書は原則有効

遺産相続は、遺言書に則って実行されます。遺留分を侵害する内容が書かれていても、無効になるわけではありません。遺留分を侵害された方は、遺留分侵害額請求を行うことで、侵害のあった遺留分相当の財産を守ることになります。

遺言書が無効となるのは、署名押印がないケースや遺言能力のない方が作成した場合などに限られます。詳しい内容は「遺言者ができる遺言対策」にて解説します。

遺留分侵害額請求とは?

遺留分侵害額請求とは、遺留分を侵害された相続人が行使する権利のことです。2019年7月の法改正によって「遺留分減殺請求」から現在の呼称に変更されました。被相続人が2019年7月1日以降に亡くなった場合に、遺留分侵害額請求の行使が認められます。

なお、遺留分減殺請求とは、侵害された遺留分にあたる財産を取り戻そうとする権利のことです。遺留分侵害額請求と似ているものの、請求の結果、相続人同士が同じ不動産を共有してしまうなど、不自由な面もありました。

そうした背景から、財産自体ではなく金銭による支払いを可能にした制度が遺留分侵害額請求となります。

遺留分侵害額請求のやり方

遺留分に侵害があった場合、当事者である相続人は、遺留分侵害額請求ができます。一般的なやり方がこちらです。

遺留分侵害額請求のやり方
  • 当事者間で話し合う
  • 家庭裁判所へ調停を申し立てる
  • 訴訟を提起する

遺産相続では、相続人の間で利害が対立するケースも多いため、第三者の介入が必要な場面も出てくるでしょう。家庭裁判所へ申し立てても解決できない場合、訴訟の提起が最終的な手段となります。

遺留分侵害額の計算方法

遺留分の基本的な計算方法を確認していきましょう。

遺留分侵害額の計算方法は、以下の2ステップで行えます。

  1. 遺留分を計算する
  2. 遺留分がどのくらい侵害されているか計算する

計算式がこちらです。

遺留分の計算式

遺留分侵害額=1×2×3

・1=遺留分を算定するための財産の価額

・2=総体的遺留分の割合

・3=相続人の法定相続の割合

相続における価額とは、財産に相当する金額のことです。価格とは、物の価値を貨幣で表したものと捉えるとよいでしょう。

主な特徴 具体例 価値
価格 主観的な評価 お店の店主がA絵画を1万円で売った A絵画の価格は1万円である
価額 客観的な評価 A絵画は、市場で5万円の評価がついた A絵画の価額は5万円である

総体的遺留分の割合や相続人の法定相続の割合は、以下の表を参考に計算しましょう。

相続人 総体的遺留分 法定相続分 個別的遺留分
配偶者のみ 1/2 1 1/2
子どものみ 1/2 1 1/2
配偶者と子ども1人 1/2 配偶者 1/2
子ども 1/2
配偶者 1/4
子ども 1/4
配偶者と子ども2人 1/2 配偶者 1/2
子どもA 1/4
子どもB 1/4
配偶者 1/4
子どもA 1/8
子どもB 1/8

例えば、配偶者と子ども1人の場合、

  • 総体的遺留分 1/2
  • 法定相続分 配偶者 1/2,子ども 1/2
  • 個別的遺留分 配偶者 1/2,子ども 1/4

となります。

ここで、被相続人Aが亡くなり、配偶者A、長男B、長女Cが相続する例をみてみましょう。相続財産がこちらです。

  • 預貯金 1,000万円
  • 分譲マンション 2,000万円

この事例では、「遺留分侵害額=1×2×3」の1にあたる金額は「1,000万円+2,000万円=3,000万円」となります。こちらの金額に、2と3を乗じていきましょう。

  • 配偶者Aの遺留分=3,000万円×1/2×1/2=750万円
  • 長男Bの遺留分=3,000万円×1/2×1/4=375万円
  • 長女Cの遺留分=3,000万円×1/2×1/4=375万円

配偶者Aの遺留分が750万円、長男Bと長女Cの遺留分がそれぞれ375万円とわかりました。

仮に被相続人が配偶者Aに全財産を相続させるとした場合、遺留分を侵害された長男Bと長女Cが、配偶者Aに対してそれぞれ375万円ずつの遺留分侵害額請求ができます。

長男Bに全財産を相続させる場合は、遺留分を侵害された配偶者Aと長女Cが、長男Bに対して遺留分侵害額請求ができます。

遺留分侵害額請求の時効

遺留分には、1年間の時効が定められています。遺留分の侵害があったことを知ったときから、1年の間に行使しないと消滅しますのでご注意ください。

(遺留分侵害額請求権の期間の制限)

第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

引用元:e-GOV法令検索-明治二十九年法律第八十九号 民法

相続の発生を知らない場合でも、相続が開始されてから10年間が経過すると、遺留分侵害額請求権は消滅します。この10年間のことは除斥期間(じょせききかん)と呼ばれ、遺留分の侵害があったかどうかには関係がありません。

また、遺留分侵害額請求を行ったあと、5年の間に何もしない場合は、支払い請求権が消滅します。金銭要求をしたあと、相手の方から「支払いを待ってほしい」というお願いをされるかもしれませんが、5年間の期日を過ぎないようにご注意ください。

遺留分を侵害されたときの対処法

遺留分を侵害された場合、何らかの対処をしないと本来相続すべき遺産を取得できなくなります。相続人の立場から、具体的な対処法を確認しておきましょう。

遺言の無効を主張

まずは遺言が無効であると主張するケースです。遺言は、被相続人が亡くなり遺言が見つかった段階から効力を持ちますが、形式に不備があれば遺言自体が無効になります。

遺言が無効となるケースがこちらです。

遺言が無効となるケース
  • 署名押印がない
  • 日付が特定できない
  • 日付が書かれていない
  • 内容が不明瞭である
  • 訂正のやり方が不適切である
  • 共同で作成されている
  • 遺言能力のない方が書いている
  • 偽造されている

遺留分侵害額請求

遺言書に形式的な不備がない場合は、遺留分侵害額請求によってご自身の遺留分を取り戻す必要があります。

しかし、遺留分侵害額請求権には時効がありますので、まずは遺留分侵害額請求権にかかる時効の進行を止めなくてはいけません。内容証明郵便を利用して、遺留分侵害額請求権を行使する意思表示を相手方に送付しましょう。

内容証明郵便とは、一般書留郵便物に書かれた内容について日本郵便株式会社が証明するサービスを指します。いつ、誰から誰に、どのような内容の文書が差し出されたのかを証明してくれるため、遺留分侵害額請求権を行使する意思表示を明確に示せるのです。

遺言者ができる遺留分対策

遺言者は遺留分についてどのような対策をとれるのでしょうか?具体的な対策を6つ解説します。

遺留分の放棄をお願いする

遺留分の放棄とは、遺留分を受け取る権利を放棄することです。遺留分の放棄によって、相続人は遺留分を請求する権利を失うため、遺留分の請求が発生しません。

遺留分の放棄は、権利を持つ相続人自らが家庭裁判所に遺留分の放棄を申し立てることで行われます。第三者が強制することはできません。

遺言者が該当する相続人を廃除して、相続の権利を奪う方法も存在します。具体的な方法として、「生前廃除」と「遺言廃除」があります。

生前廃除は、被相続人が家庭裁判所に廃除を申し立てる方法です。一方で、遺言廃除は相続人を廃除したい旨を遺言書に残す方法です。被相続人が亡くなってから、遺言書を見た遺言執行者が該当する相続人の廃除を代行してくれます。

遺留分を減らす

侮辱されたことがあったり老後に冷たくされたりと、特定の相続人に相続させたくないケースもあるでしょう。その場合は、相続財産を少なくしたり相続人を増やしたりして、遺留分を減らすことが可能です。

財産の価額が減少すると、遺留分の額も少なくなります。また、相続人を増やすことで、相続人1人あたりの遺留分を減らせます。

相続財産を少なくする

相続財産を少なくする方法として、生前贈与が有効です。生前贈与とは、個人が亡くなる前に、別の誰かに無償で財産を渡す行為を指します。生前贈与には、対象者の条件や金額の上限がないため、遺言者の意思により好きな財産を贈与できるのです。

贈与によって財産の価額を調整すれば、相続財産を少なくできるでしょう。ただし、特定の相続人に贈与した場合は要注意です。贈与を受けた相続人に特別の利益(特別受益)が発生したとみなされ、その分の利益を他の相続人に分配する可能性が出てきます。

相続人を増やす

相続人を増やすことで、相続人1人あたりの遺留分を減少させることも可能です。具体的には、養子縁組制度を利用して相続人を増やすことになるでしょう。

例えば、相続人が長男と長女の2人の場合、それぞれの遺留分の割合は、「1/2×1/2=1/4」となります。養子縁組によって子どもが3人になると「1/2×1/3=1/6」となり遺留分の割合が小さくなりますから、結果的に遺留分を減らせるわけです。

付言で想いや願いを伝える

遺言書に付言事項を残すことで、遺留分を侵害された相続人が請求を思い留まってくれるかもしれません。付言(ふげん)とは、本文に付け足していう言葉を意味します。

例えば、財産の相続の割合についての遺言者の想いや理由を遺したり「家族同士助け合ってほしい」といった願いを記載したりするといった方法が有効と考えられます。

遺言執行者に弁護士や司法書士を選任する

第三者を遺言執行者として定めることで、客観的な立場から遺言書の内容の実現に努めてくれるでしょう。遺言執行者とは、遺言の内容を執り行う方のことです。

また、法律の専門家である弁護士や司法書士であれば、遺留分の手続きにかかる煩雑な業務もスムーズにこなしてくれるはずです。

遺留分に関してご自身だけで解決がむずかしいと感じたら、信頼できる弁護士や司法書士に相談しておくと安心かもしれません。

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